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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第62話 「王都への道、薬師は名を伏せる」

仮処方が森に根づいた翌朝。

薬草園には、久しぶりに“普通の朝”が戻ってきていた。


鳥が鳴き、風が葉を揺らし、土は穏やかに温かい。

だがアメリアの胸の内は、決して穏やかではない。


「……ここまでよ」


彼女は園の端で足を止め、振り返った。

森の奥に見える、かすかな光――地脈の呼吸は安定している。


「三日は持つ。たぶん、四日目からまた歪みが出る」

セイリウスが淡々と告げた。


ルシアンは馬具を締めながら、短く言う。

「だったら、二日で王都に着いて、残り一日で話をつけるしかないな」


「ええ」

アメリアは頷き、外套のフードを被った。

その仕草は、辺境伯令嬢というより、旅の薬師そのものだった。


「王都では、私は名乗らないわ」

彼女ははっきりと言った。

「“辺境伯令嬢アメリア”ではなく、“森を診た薬師”として話す」


セイリウスがわずかに目を細める。

「身分を伏せるのか。交渉は不利になる」


「だからいいの」

アメリアは静かに答えた。

「地脈は身分を見ない。

なら、私も肩書きは置いていく」


ルシアンは一瞬だけ迷い、それから笑った。

「らしいな。……護衛は俺で問題ないか?」


「ええ。頼りにしてる」


三人は馬に乗り、王都へ続く街道へと進み出した。


街道は賑わいを取り戻しつつあった。

行商人、旅人、巡礼者。

その中に混じる三人は、目立たない――はずだった。


だが、王都が近づくにつれ、空気が変わる。


「……地面、固いな」

ルシアンが低く呟く。


アメリアも気づいていた。

土が“生きていない”。

踏みしめても、返ってくる感触が薄い。


「地脈が引き絞られてる」

セイリウスが地図を見ながら言う。

「王都に近づくほど、顕著だ。これは……やりすぎだな」


遠くに、王都の外壁が見えた。

白い石造りの街。

繁栄の象徴――だが、アメリアには不自然に映る。


「……栄養を吸い上げすぎた植物みたい」

彼女はぽつりと漏らした。

「大きく見えるけど、根が痩せてる」


王都の門前で、検問があった。


「目的は?」

衛兵が無表情に尋ねる。


ルシアンが一歩前へ。

「薬の納品と、症例報告だ」


「どこの所属だ」


一瞬の沈黙。

アメリアが前に出た。


「所属は持ちません。

各地を回る薬師です。

……王都で、地脈由来の体調不良が増えていると聞いて」


衛兵の眉がぴくりと動いた。


「その話、どこで聞いた?」


「街道沿いで。

足の冷え、頭痛、原因不明の倦怠感。

――地面が“冷えすぎている”症状です」


空気が、わずかに張り詰めた。


やがて衛兵は視線を逸らし、門を指した。

「……通れ。だが、余計な詮索はするな」


門をくぐった瞬間、アメリアは確信した。


(――もう、始まってる)


王都の中。

石畳の下で、地脈は無理やり引き延ばされ、悲鳴を上げている。


宿に荷を下ろした後、三人は小さな診療所を訪れた。

表向きは貧民向けの施療所。

だが、裏では王都の“異変”が集まる場所だ。


中では、若い治療師が疲れ切った顔で患者を診ていた。


「最近、同じ症状ばかりで……」

彼はぼやく。

「薬が効かないんです。原因が、体にない」


アメリアは患者の手首に触れ、目を閉じた。


「……地面の冷えが、血流を奪ってる」

彼女は静かに言う。

「これは病気じゃない。環境症状よ」


治療師が目を見開く。

「そんな……じゃあ、どうすれば?」


アメリアは顔を上げた。

その瞳には、迷いがなかった。


「王都の“中枢”に行く必要がある。

地脈を管理している場所へ」


セイリウスが頷く。

「心当たりがある。

公には存在しないが……“地脈調整室”だ」


ルシアンが低く唸る。

「完全に黒だな」


アメリアは深く息を吸い、決意を固めた。


「行きましょう。

治療が必要なのは――森だけじゃない。

この王都そのものよ」


石の都の奥で、歪んだ流れが脈打つ。

薬師は、次の患部へ向かう。

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