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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第56話 「森の深呼吸、動き出す気配」

潮の忘れ草の“拠点”を見つけてから二日。

アメリアは朝早くから薬草園の奥で準備をしていた。


木箱に道具、採取袋、記録ボード。

そして新しく作った、小型の“地脈観測用の杭”。


「よし……これで三か所分。森の風道と地面の温度も測れるように改良したし……」


作業に集中していると、背後からルシアンが顔を覗かせた。


「アメリア、おはよう。今日も森、行くんだよな?」


「ええ。潮の忘れ草が示す“変化”。

あれが一過性じゃないなら、森が先に悲鳴をあげるかもしれない。

その前に気づかないと」


ルシアンは眉を寄せつつも、どこか嬉しそうに笑う。

「……じゃあ今日は、俺も一緒に行く。止めても無駄だろ?」


「もちろん。あなたの体力が頼りなんだから」


二人が笑い合っていると、セイリウスが森の地図を手に現れた。


「第三層の窪地、昨夜の気温が通常より一度低い。

人の目に見えないほどの地脈流が、弱く脈動している可能性がある」


アメリアは頷く。

「観測杭を使えば、もう少し正確にわかるはずよ。

潮の忘れ草の状態も見ておきたいし」


セイリウスは一歩近づき、アメリアの手元の機材に視線を落とした。

「……お前は本当に、どこでも働くな。王宮の研究室より手際がいい」


「便利な道具は好きなのよ。あと……森は文句言わないし」


その軽い冗談にルシアンがくすっと笑い、セイリウスは無表情のままわずかに肩を揺らした。


こうして三人は、再び森の奥へと向かうことになった。


この日の森は、一変していた。


風が弱く、空気が深く沈んでいる。

昨日より、森が“考えている”ような、静かな気配。


「……気温、下がってる」

アメリアは携帯温度計を確認する。


森の第一層は通常より0.6度低い。

第二層は1.3度。

そして――第三層は1.9度。


「このペースで下がれば、来週には何かしら目に見える変化が出るな」

セイリウスが冷静に呟く。


アメリアは潮の忘れ草があった窪地に視線を向ける。

「急がなきゃ」


三人は慎重に足を進め、静まり返った窪地へと入った。


そこには――


潮の忘れ草の束が、昨日よりも“光っていた”。


淡い青白い光。

だが、以前のように清らかではなく、少しだけ揺らぎ、不安定な色を帯びている。


ルシアンが目を見開く。

「……え、昨日より元気? でも……なんだこれ、怒ってるみたいな光だ」


アメリアは草に近づき、根元の土を調べる。

「温度が……2度下がってる。まるで地面が息を潜めてるみたい」


彼女は観測杭の先端を地面に押し込んだ。


杭は静かに光り、その上の計測盤が微細な震えを拾い始める。

アメリアは針の揺れを読み取り、息を呑んだ。


「……やっぱり。地脈の流れが歪んでる。

まるで細い道がいくつも絡まって、ほつれてるみたい」


セイリウスが低く言う。

「地脈の“ほつれ”か。王宮では千年に一度あるかどうかと言われているが……」


「森が静かになった理由も、潮の忘れ草が現れた理由も、説明がつくわ」

アメリアは続けた。

「地脈の緩んだ場所に、潮を糧にする植物が引き寄せられたのよ。

そして――それ自体が、森の異変を知らせるための“指標”になってる」


ルシアンが草を見つめてぽつりと言う。

「じゃあ……この草をどうする?」


アメリアはしばらく迷い、そして決めた。


「――守る。

ただ抜くんじゃなくて、森ごと守らなきゃ。

この草が教えてくれる情報を見ながら、地脈の歪みを整える方法を探す」


セイリウスは目を細める。

「森全体の調整……簡単にはいかんぞ?」


「でも、放置はもっと危険よ」

アメリアは真っ直ぐに見返す。

「森が倒れれば、潮の風も地の風も、すべて崩れる。

薬草園だけじゃなく、領地そのものが揺らぐかもしれない」


短い沈黙を破ったのは、意外にもルシアンだった。


「……アメリアがやるなら、手伝う。

この森、俺にとっても大事だし」


セイリウスも、小さく息を吐く。

「まったく……お前はいつも、問題ごとを抱え込みすぎる。

だが――」


彼は草の光を見つめ、静かに続けた。


「やる価値はある。地脈の調整は、本来賢者の仕事だ。

俺が協力しない理由はない」


アメリアは二人に向き直り、微笑んだ。


「ありがとう。

じゃあ、今日から始めていきましょう。

森の声を聞く仕事を」


三人は窪地に腰を下ろし、計測器や地図を広げた。

静まり返る森の奥で、潮の忘れ草だけが淡く揺れながら、彼らを見守るように光っている。


森の深呼吸は、まだ弱い。

だが――微かに、再び動き出しつつあった。


そしてその変化は、やがて大きな物語の転機となる。

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