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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第28話 「国の目――公的調査団の到来」

夜明け前の薄闇がまだ村を包んでいる頃、馬の蹄の音が近づいてきた。蹄は重く、規模の大きさを告げる。王都からの馬車列だ――公的調査団を乗せた車列が、辺境の道を黙々と進んでいる。


「来ました。王室の特命調査団です」

村の門の見張りが小声で告げる。アメリアは研究小屋の前に立ち、冷たい朝の風を顔に受けた。ルシアンとセイリウスもすぐに揃い、三人の表情は引き締まっている。昨夜の雨に洗われた薬草の葉が、淡く光っていた。


やがて馬車が広場に到着し、陛下の名代である重役たちが下車した。先頭には王室顧問の高位役人と、学術院長、更に王宮から派遣された法務官の姿がある。護衛の兵士が周囲を固め、場内には緊張が走った。


「ハーヴェスト辺境伯令嬢アメリア・フォン・ハーヴェスト殿か」

法務官の声は冷静で公的だ。アメリアは一歩前に出て、深く頭を下げた。


「陛下の命により、今回の混入問題の全貌を解明するため、私どもが参りました。現場の検証、証拠保全、関係者の聴取を行います。どうかご協力を」

学術院長の言葉は穏やかだが、そこには揺るがぬ厳しさが含まれている。村人たちはひそひそと話し、やがて物見高い視線が研究小屋へと注がれた。


調査団は迅速に行動を開始した。学術院の技術官が検査機材を降ろし、王室の公証人が帳簿と証拠書類の封印を確認する。セイリウスは彼らに研究データの複製を差し出し、ルシアンは追跡台帳を整え、アメリアは村の代表とともに現場の説明を行った。


「まずは、辺境側の出荷記録と、学術院共同ラボへ届いた時点での状態を逐一照合します」

学術院長が冷静に言う。ミカエル・ローエンは調査団の影に消えては現れ、古い人脈から得た情報をひそかに差し出している。彼の存在は、アメリアたちにとって頼もしい灯台のようだった。


午前中、調査団はラボで発見された結晶のサンプルを持ち帰り、現場の乾燥棚や器具の拭き取り検査を行った。王室の魔導検査官は保全術を使い、一切の痕跡を拡大記録する。だが、そこに映るのは「計画的な仕込み」を示唆する微かな手跡――しかし確たる“指”はまだ見つからない。


昼が近づいた頃、村の集会場で公的な聞き取りが行われた。関係者が一人ずつ壇上に上がり、監査役や法務官が質問をぶつける。村長、乾燥担当、出荷係、学術院から派遣された担当者――皆が事実関係を淡々と述べる。


そして最後に、アメリアの番が来た。彼女は穏やかに、しかし端的に出来事の経過を語った。涙を堪えた村人たちの顔が何度も思い浮かび、彼女の声は時折震えるが、言葉は明晰だった。


「私たちは透明性を信じ、全ての記録を学術院にも提出しました。今回の混入は、辺境で起きた出来事ではなく、学術院の共同ラボで何らかの形で改変された可能性が高い。私たちは原因の究明を、最初から望んでいました。それは薬を使う全ての人のためです」


会場に静かな拍手が起きる。だが、場外では別の動きが始まっていた。調査団の一員である王室法務官が、ひそかに取り出した資料を学術院長に渡す。二人は短い囁きの後、厳しい表情で互いに頷き合った。


午後――重大な展開が訪れる。学術院の技術官が手にしていた溶媒サンプルの分析結果が届いた。解析データは衝撃的だった。溶媒の成分配合に、学術院の特殊調整室で扱われるものと同一の添加物が混入しているだけでなく、その添加物には、王都のある行政局で標準的に使用される保存処理の痕跡が含まれていたのだ。


「ここに混入の痕跡があります。学術院の内部だけでなく、行政の一部で使われる処理が関係している可能性が示唆されます」

技術官の声に、会場がざわついた。王室の面々の眉がきつく寄る。隣席の学術院長も顔色を変えた。


その直後、法務官は厳格に告げた。「本件に関与したと思しき者の一時拘束を行う。王の裁定により、学術院内の一部役職者を聴取する権限を行使する」


誰も予期しなかった人物――学術院の便利な橋渡し役であり、学術と商の調整を担っていた“資材調達課長”の名が告げられた。彼は普段は影の役回りをし、表に出ることは少ない。だが今回、証拠は彼の部署で扱われた記録と器具の使用痕跡に結びついていた。


「彼がなぜそこに?」と低い声でルシアンが呟く。だがアメリアは冷静に、その場で立ち上がった。


「法の手続きに従ってください。私たちは真実を求めています。たとえ、どれほど高い地位の者でも、正義には従わなければならないはずです」


資材調達課長は厳重に手錠をかけられ、その場で連行された。村人たちは息を呑む。学術院の高位研究者や一部貴族の側近は顔を引きつらせ、噂は瞬く間に広がった。


夕方、事情聴取が始まる。資材課長は繰り返し否定した。だが、ルシアンが提示した作業ログの改竄の痕跡、そしてミカエルが示した古い入出帳との比較、分析結果が重なり、法務官の訊問は次第に追い込んでいった。


「君は学術院の名を使い、外郭請負業者と内通して資材の流れを操作した。動機は何だ?」と法務官が問えば、資材課長の唇が僅かに震える。


「私が…指示を受けていたとは言えない。命令系統が…私の上にも影があった」彼の言葉は混乱と恐怖で揺れていた。だが、確定的な“上の命令”の名は出ない。


その夜、王室代表と学術院長が密やかに協議をする場にアメリアは招かれた。王室の顧問が静かに言った。


「今回の拘束は、始まりに過ぎない。内部にいる者を一人落とすことで、全ての繋がりが明らかになるとは限らない。だが、公的な介入は必要だった。皆の信用を守るために」


アメリアは深く頷いた。だが、心の片隅に蠢く不安は消えない。資材課長の口から出た「上に影があった」という言葉。誰が“上”なのか――学術院長でもなく、ただの課長に命令を出す者とは。王都の政治の深い層が、再び顔を覗かせている。


だが、その夜の最後、思いがけない一手が打たれる。ミカエルが古い書類の束からひとつの紙を差し出した。それは、過去に交わされた資材発注の交換メモで、印字されていない手書きの注記が残っている。その注記の筆跡は、以前に一度だけ見たことがある――王都のある有力貴族の私書箱に残されていたメモと似ていたのだ。


「まだ確定には至らないが、もしこの筆跡が一致すれば、影は思ったより深い位置にある」ミカエルの声は重く、しかし決意を含んでいる。


アメリアは紙を両手にとって見つめた。月光がインクの黒を浮かび上がらせる。文字は小さく、だが確かにそこにある。「――これは、先に進めるべき手がかりだ」と彼女は思った。


夜が更ける。王室の馬車は明日の行動計画を整え、学術院は夜通しで証拠を解析する段取りを組む。辺境の村は静かだが、村人の瞳には期待と不安が混ざる。


第28話の幕は閉じるが、真相に迫る道はまだ続く。影は深く、海流の裏に潜む者たちは陰陽を使い分ける。だが、アメリアたちは諦めない。薬草園とその香りを守るために――どんな嵐が来ようとも、彼女はその手で灯を掲げ続ける。

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