第2話 「初めての薬草園と、ハーブティーの奇跡」
「……うん、芽が出てる!」
朝日が差し込む畑の中で、私は思わず声を上げた。
昨日まで茶色い土だった場所から、小さな緑の芽が顔を出している。
前世で散々見慣れた光景なのに、この世界ではまるで奇跡のように感じられた。
「お嬢様、本当に……本当に芽が……!」
傍らでメイドのマリアが目を丸くしている。
彼女はこの屋敷でもっとも真面目な少女だが、最初に「薬草園を作ります」と宣言した時には、本気で心配していたらしい。
だが、今では私の一番の助手だ。
「ね、すごいでしょう? この子たちは“カモミール”。お茶にも薬にもなる優れものなの」
「カモ……ミール?」
「そう。お腹の調子を整えて、気持ちも落ち着けてくれる。
夜、眠れない時にもぴったりのハーブよ」
説明しながら、私は思わず笑ってしまった。
まさか異世界で、また薬草に囲まれる日が来るなんて。
前世では、患者さんの顔を見る余裕もなかったのに。
今は、育つ芽ひとつひとつが宝物に見える。
「お嬢様、こちらの苗はどうされますか?」
年配の執事・クラウスが、遠慮がちに尋ねてきた。
彼は最初、私の行動を奇行だと思っていたらしい。
それが今では、鍬を持って一緒に畑を耕してくれている。
「それは“ミント”です。繁殖力が強いから、広がらないように囲いをしてね。
これもお茶にして飲むとスッキリして、気分が晴れるのよ」
「ほう……まるで魔法のようですな」
「ええ、でもこれは“薬学”よ。魔法じゃなくても人を癒せるって、私は信じてるの」
その言葉を口にした瞬間、マリアとクラウスの表情がほんの少し和らいだ。
きっとこの辺境では、“癒し”なんて遠い言葉だったのだろう。
病気が治らなくても、仕方がないと諦める人が多い。
でも私は、それを少しずつ変えていきたい。
夕暮れ時。
収穫したカモミールを乾かし、ハーブティーを淹れてみる。
お湯を注ぐと、ふわりと甘い香りが立ちのぼった。
金色の液体が、カップの中でやさしく揺れる。
「さ、マリア、クラウス。試してみて」
「わ、私どもが……? お嬢様が最初にお飲みくださいませ!」
「いいのいいの。私はもう味見したから。はい、どうぞ」
恐る恐る口をつけたマリアが、次の瞬間、目を見開いた。
「……おいしい……! なんだか、胸が温かくなって……」
クラウスもゆっくりと頷く。
「こんな穏やかな気持ちは久しく感じておりません……。心までほぐれるようですな」
私は微笑んだ。
「そう。それが薬草の力よ。体を癒して、心をほっとさせてくれる。
きっとこのお茶は、ここに住む人たちにも必要になると思うわ」
その言葉を口にした時、ふと屋敷の外から馬の蹄の音が聞こえた。
マリアが驚いて窓の外をのぞく。
「お嬢様……! 王都の紋章をつけた馬車がこちらへ!」
「王都? まさか、もう誰かが……」
胸が高鳴る。
まさか、ゲームで“冷徹な第二王子”と呼ばれていたあの人物が――。
扉がノックされる音。
そして、聞き覚えのある低い声が響いた。
「アメリア・フォン・ハーヴェスト嬢。お前に、話がある」
私は静かに立ち上がり、ハーブティーの香る部屋で微笑んだ。
「ようこそ、殿下。一緒にお茶でも、いかがですか?」




