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辺境伯令嬢は薬草園でまったりスローライフ ~追放?破滅?いいえ、今日もハーブティーが美味しいです~  作者: 和三盆


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第102話 「名を持たぬ依頼」

朝の市場は、昨日よりもざわめいていた。


雨が近い。

空気が湿り、香辛料と土の匂いが混ざる。


アメリアは露店を見て回りながら、ふと足を止めた。


薬草の束が、不自然なほど乾いている。


「これ、どこで?」


売り子の少女が肩をすくめた。


「北の丘です。でも最近、枯れが早くて……」


枯れが早い。


その言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。


昼前、宿に戻ると主人が声をかけてきた。


「あなた、薬草に詳しいんでしょう?」

「ちょっと見てほしいものがある」


裏庭に案内される。


そこには、保管していたはずの乾燥薬草が山積みになっていた。


だが――


色が抜けている。

香りが、薄い。


「保存環境は?」


「いつも通りだよ。湿気も避けてる」


アメリアは、一本を手に取り、折る。


ぱきり、と軽すぎる音。


「……土が変わってる」


主人は目を丸くした。


「土?」


「採取地の。養分の偏りか、水の流れが変わったか」


午後、北の丘へ向かう。


小さな流れが、わずかに道を変えていた。


雨の多い年だ。

地形は静かに変わる。


「ここ数年、急いで刈りすぎたのね」


根が浅い。


回復を待たず、取り続けた結果だ。


誰かが焦った。

需要に応えようとした。


その結果――土地が、疲れた。


町に戻ると、主人と売り子が待っていた。


「どうでした?」


アメリアは、はっきり告げる。


「しばらく採取を止めて」

「代わりに、場所を分けて育てる」


「そんな余裕は……」


「今止めなければ、来年はゼロになる」


沈黙。


彼らは、互いを見る。


「……どれくらい、待てばいい?」


「最低でも一季節」


夜。


町の小さな集まりで、話をすることになった。


命令ではない。

提案でもない。


事実だけを伝える。


「土地も、人と同じです」

「使い続ければ、痩せる」


誰かが問う。


「あなたは、どこの人だ?」


アメリアは少し考え、答えた。


「辺境の者です」


それ以上は、言わない。


名を出さない。

肩書きも、成果も。


ただ、必要なことだけ。


集まりは、静かに終わった。


すぐに全員が納得したわけではない。

だが、翌朝。


北の丘には、採取禁止の札が立っていた。


売り子の少女が、小さく笑う。


「一季節、我慢します」


アメリアも、微笑んだ。


宿に戻る途中、思う。


これは依頼でもない。

報酬もない。


だが――


自分が選んだ道の、最初の形だ。


広げるのではなく、繋ぐ。

教えるのではなく、気づかせる。


夜空を見上げる。


遠く離れた辺境も、きっと同じ空の下。


「……悪くない」


名を持たぬ小さな仕事が、

静かに世界を変えていくのだから。

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