【短短短編作品】穴
この教室は、奇妙な空間だ。
僕らはただ、この時代に、この場所に生まれた。
たったそれだけの理由で、この狭い箱の中に閉じ込められているのだ。
ここで交わされる言葉は、僕にとってただの記号に過ぎない。
休み時間に囁かれる、誰かの噂。誰が喧嘩し、誰が付き合い、誰と別れたか。
どれもこれも、心を震わせない、しょうもない音の羅列だ。
彼らが語る『共感』や『理解』は、お互いの主観を押し付け合う、ただの『願望』に過ぎない。
誰もが自分の『願望』を客観的な真実だと信じ、都合の良い『共感』や『理解』として、相手に投影しているのだ。
そして、この不毛なやり取りの果てに、僕の胸にはぽっかりと穴が空いてしまった。
それは、いつしか僕自身を蝕み、喰らい尽くしていくだろう。
心を豊かにし、宥めてくれるはずの、文学や音楽、映画。芸術と呼ばれるそのすべてが、本当に自身の心の底から湧き出るものなのか、僕は確信が持てないでいる。
僕は一体、何者なのか。
今、自身を形作っているこの物体は、本当に僕なのだろうか。
そして、この言葉にならない揺らぎは、いつまで続くのだろうか。
答えはどこにもない。
僕は今日もこの穴に飛び込み、答えのない答えを探している。