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第九十四話 トワとアヤメの試練その二~精霊と聖獣の軋轢~

 岩だらけで殺風景な黄山を歩く事しばし。

 トワ達は時々遭遇するモンスターを倒しながら、一路頂上を目指した。


「〈金行刀変化〉!」


 ウボァアアアアアアアア!


 とは言ったモノの、モンスターに関してはほとんどトワの出番は無かった。

 アヤメが〈金行刀変化〉で作った刀でバッタバッタとなぎ倒していく。


『ほぅ。もしかしてギラニウム製の刀でしょうか?』

「おや、そんな事も御存じなのかい?これはこの間のティアマト戦の戦利品さね」


 ウンディーネが感心したように声も漏らす。

 アヤメは自慢げに黒光りする刀を彼女の目の前に掲げる。


『刀の文化がまだ残っていたのですね。てっきり両刃剣にシェア争いで負けたのかと』

「そっちかい!」


 意外とすっ惚けた反応をするウンディーネに、アヤメがいつものノリでツッコミ。


「ねぇ?ウンディーネも刀使うよね。やっぱり思い入れがあるの?」


 トワは首を傾げながら問いかけた。

 刀はルミナスでは一般的な武器ではない。

 おそらく製造コストが原因だろう。


 ウンディーネがアヤメの刀を見る目は普段よりも輝いていた。

 珍しい反応に対して単純な好奇心から問いかけたのだが……


『はい!私、精霊になる前から刀使いでして……』


 聞くんじゃなかった。

 今のウンディーネは自分の趣味を語りたくて堪らない厄介オタクだ。


「へぇ?そうなのかい?あたいは基本くノ一だけど、刀術にも心得があってね。タマル流刀術っていうんだけど」

『へっ!タマル……ですか』


 トワは目を見開いた。

 ウンディーネが一瞬驚きで固まり、その後僅かに寂しそうな表情を浮かべたように見えた。

 優し気なお姉さんでも鬼ババアでもない。

 ウンディーネのもっと深い部分を垣間見た気がした。


『そうだったのですね!実は私の流派もタマル流でして……今度、是非お手合わせを!』

「いやいや、流石に一万年間鍛錬を積んだ四大精霊に太刀打ちできると思うほど自惚れちゃいないさね」


 気のせいだったのだろうか?

 一瞬目を離した隙に、ウンディーネの表情は普段の優しいお姉さんに戻っていた。

 楽しそうに刀談義をする二人は平和そのもの。

 トワは二人のおしゃべりを邪魔しようとする無粋なモンスター達を丸焼きにしながら、歩を進めた。



 ……更に歩く事しばし。

 トワ達は両手いっぱいに魔石を抱えながら、頂上付近へと辿り着いた。


「さて、ここで一旦休憩さね」


 山道とは名ばかりの獣道を抜けた先にある少し開けた場所でアヤメが提案。

 それはいよいよゴールが近い事を示していた。


『そうですね。あの黄龍(ろうがい)をコテンパンにする下準備をしなくてはなりませんしね』

「ねぇ。ウンディーネって黄龍の事が嫌いなの?」

『はい、大嫌いです』


 ウンディーネの黄龍に対するヘイトスピーチが止まらない。

 この二柱の間に一体何があったのだろう。

 トワが質問してみると、返って来たのは背筋が凍るような薄ら寒い笑顔。


「なぁ、水の精霊さん。なんでそんなに黄龍が嫌いなわけ?」


 アヤメが呆れた顔で問いかける。

 すると、ウンディーネが表情を歪めながら答える。


『あの老害共。一万年前、我が主が空の悪魔と戦っている時には静観を決め込んでいた癖に、いざ戦いが終わった途端、手柄を横取りしようと……』


 あっ……これは触れていけないやつだ。

 眉間にしわを寄せて怒りを露わにするウンディーネの形相に、トワとアヤメの背筋が凍る。


『挙句の果てに空の悪魔と戦った精霊達を新参者として見下してきて下級精霊に嫌がらせ……前に一度絞めてやった事がありますけど、そうしたら自分の陣地に引き籠って出て来やしない。今回アヤメ様に協力するのも、腰抜け共に立場を分からせるいい機会だと思ったからなのですが……』


 鬼ババアの悪口が止まらない。

 精霊と聖獣の間には歴史的な確執があるようだ。

 トワとアヤメは爆薬の前でキャンプファイアをした事を後悔しつつ、これ以上延焼しない事を願った。


『そもそも、一万年前だって、最初からあいつら土着の守護者がちゃんと仕事をしていれば……』


 女の悪い部分を煮詰めた様な罵詈雑言を聞き流していたトワだったが、ふと気になるワードが耳に入り、反射的に口を開いた。


「ねぇ、土着の守護者って何?」


 トワの言葉にウンディーネが我に返る。


『そういえば、現代のルミナス人はほとんど忘れ去っていましたね。古臭い守護者の事なんて』


 先ほどまで完全に怒り心頭だったウンディーネの顔に楽しげな笑顔。

 急に上機嫌になった彼女にトワが困惑していると……


「どうやら、黄龍達聖獣は守護者と呼ばれていて、シュターデンが生きた時代より前にルミナスにいた霊的存在らしいよ。それでウンディーネ達精霊はシュターデンが生み出した比較的新しい種族。お互いに仲が悪くて、ウンディーネは精霊側のタカ派って感じかな」


 アヤメがウンディーネの会話から読み取れる事実を要約。

 つまり、現代ルミナス人が守護者の存在を忘れている事に、精霊代表ウンディーネが気を良くしたわけだ。

 なんとも了見が狭い話である。


「なぁ、ウンディーネ。もしかして聖獣の力を借りているあたいの事が気に食わなかったりするのかい?」


 アヤメが何の気なしに問いかける。


『いえ!とんでもありません!アヤメ様はレイ様やトワ様やクオン様と共にあの忌々しい空の悪魔と戦って下さった勇敢なお方。尊敬こそすれど嫌う道理など微塵もございません』


 狼狽したウンディーネが必至に弁明。

 こんなにも慌てた彼女を見るのは初めてだ。


「まぁ、そう言われたら悪い気はしないさね」


 褒められたアヤメが照れくさそうにはにかむ。

 そんな彼女達のやり取りを眺めながら、トワは会話に僅かな引っ掛かりを感じた。


『どうかされましたか?トワ様』


 考え事をしているとウンディーネが心配そうにこちらの顔を覗き込む。


「ううん、何でもない」


 トワの思考はそこで途切れた。


「そんな事より黄龍の対策について考えよう。属性相性が悪いらしいからしっかり作戦を練らなきゃ」


 トワは笑顔でウンディーネに応じた。

 結局、違和感の正体が何なのかは最後まで分からなかった。

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