第五話 伝説の魔法使い
食事を終え、人心地着いた嶺とトワ。
食器を片付ける為にカリンが離席した所でトワが口を開く。
「さっきはごめんなさい!」
「ん?なにがだ?」
トワが勢いよく頭を下げる。
何に対しての謝罪か分からず、嶺は思わず訝しむ様な表情を浮かべた。
「さっき、お兄さんが色々知らない事、悪く言ったでしょう。それで……」
「あぁ、気にしなくてもいい。自分は気にしていない」
沈んだ表情のトワ。
本当に気にしていない嶺は淡々とフォローする。
「えっとね。お兄さんの記憶が無い原因だけど、たぶん魔法の使い過ぎだと思うの」
「うん?どういう事だ?」
嶺は前のめりになって問いかけた。
魔法の新情報は嶺にとって非常に興味深い。
「あなたの使う肉体強化みたいな無属性なんだけど、別名があってね……」
言い辛そうに言葉を濁すトワ。
嶺は無言で彼女の言葉を待つ……
「創造主の魔法。この世界に魔法をもたらした伝説の魔法使いシュターデンの魔法とされているの」
「シュターデン?」
「うん」
トワは神妙な顔つきで頷いた。
「シュターデンはこの世界を護った大魔法使い。空の悪魔と魔法で戦った古代の勇者」
「……」
英雄シュターデンと空の悪魔……おそらく民間伝承か何かなのだろう。
嶺は知らない惑星の物語に興味津々で耳を傾けた。
「シュターデンの魔法は強力なモノが多いんだけど、その分術者への負担が大きくて、時々記憶が抜け落ちたり、体の一部が動かなくなったりする事があるの」
「……」
「大魔法使いシュターデンも晩年は魔法の後遺症に悩まされたって言われているけど、それでもこの世界の為に戦い抜いて……そして勝った」
「……」
トワが言葉を濁した意味を嶺は理解した。
伝説の英雄と同じ魔法を使って記憶を失った男。
彼女は嶺のバックボーンに壮大なナニかを想像してしまったのだろう。
「シュターデンは全ての魔法使いの目標」
トワの瞳に浮かんだ感情は憧憬。
ヒーローに憧れる子供の目。
キラキラと瞳を輝かせる彼女の言葉に嶺は黙って頷いた。
「アタシは戦士だけど、まだ精霊とも契約してない半人前……だけどいつか……」
「そうか」
先ほど古の勇者に向けた視線をそのまま嶺へと向けるトワ。
彼女にとって魔法と古の大魔法使いは特別で大切なモノなのだろう。
「トワ……ここは良い所だな」
「ん?どうしたの?藪から棒に」
唐突に投げられた言葉にトワは首を傾げた。
おそらく彼女にとってここでの生活は当たり前のモノなのだろう。
だが、嶺にとっては違った。
銀河同盟ではもう見る事ができなくなった素朴な風景。
その中に内包された魔法にモンスターに不思議な現象の数々。
この惑星には未知の驚きと……
こんな状況で不謹慎だが、男心をくすぐるワクワクがあった。
「トワ、君を助ける事ができて本当によかった」
嶺は小さく呟いた。
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない」
首を傾げるトワに、嶺は小さく微笑んだ。
一体何年ぶりに笑っただろうか?
嶺は感謝した。
知らない世界を知れたことに感謝した。
嶺は感謝した。
胸躍る出会いに感謝した。