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第八十四話 救出作戦

「助けて下さい!」


 土と岩盤に囲まれた地下洞窟。

 レイ達が仮眠を終えた直後。

 事態が動いたのはボロボロの少女の懇願からだった。


「もう大丈夫です。落ち着いて下さい」


 いち早く動いたのは神官のクオン。

 水色の髪をした愛らしい少女を、柔らかい笑顔で抱きかかえた。


「あなたはだ~れ?どうしてこんなところに?」


 クオンの胸の中ですすり泣く少女に、カリンが膝を屈めながら優しく問いかける。


「グスっ……私はファラリス。知らない内に牢屋に閉じ込められていて……」


 ファラリスは琥珀色の瞳に涙を溜めながら、上目遣いでカリンに訴えかける。


「友達と一緒に逃げて来たんだけど、途中で友達が大きな虫みたいな機械に捕まって」

「……ヘルスパイダーか」


 セツナの呟きにファラリスがビクリと肩を震わせる。


「お嬢ちゃん。お前さんが捕まっていた牢屋ってのは何処だ」

「うぅっ!」


 セツナが詰め寄った途端、少女は怯える様に嗚咽を漏らす。


「あなた!怯えさせてどうするの!ちょっと向こう行ってて!」

「うぅ……分かりました」


 カリンの特大級のカミナリに、セツナは肩を落としながらトボトボとその場を離れる。


「セツナさん……どう思いますか?」


 レイはセツナの煤けた背中に駆け寄り、神妙な口調で問いかける。


「どうって……多分お前さんと同じだ」

「そうですか……」


 肩をすくめるセツナと共に、レイもうんざりした表情で肩を落とす。


(アス。地下の生命反応は?)

(製造プラントから少し地下に進んだ場所に数四。全て子供であると推測)


 レイはアスの報告を聞きながら、小さく舌打ち。


「明らかに罠ですね」

「だな……で、どうするんだ?」


 珍しく真剣なセツナの声にレイは大きなため息。


「行くしかないですね。人命優先です」

「おっしゃ!そうこなくっちゃ!」


 セツナは右拳を左手のひらに打ち付けて気合を入れる。

 そんなセツナの態度にレイは眉をひそめる。


「セツナさん、分かっていると思いますが」

「あぁ、厄介な状況だな。あんな分かりやすい撒き餌を撒くくらいだ。陰湿な罠が仕掛けられているに違いない。だが……」


 ここでセツナが一呼吸。


「そのおかげで助かる命もある」


 レイは目から鱗が落ちた気分だった。

 セツナは人質を取られたという逆境を、人質を助けられる可能性があるという好機として見ている。

 セツナの豪快な笑顔にレイは力を貰った気がした。


「セツナさん、少し話が……」


 レイはセツナの耳元に口を寄せ、極々小さな声で耳打ち。


「……あぁ、分かった。カリンには上手く伝えておく」

「お願いします。クオンさんには自分から伝えておきます」


 レイの言葉にセツナが険しい顔を浮かべる。

 正直、今話した内容はあまり愉快なモノではない。

 セツナと同じ気持ちを胸に、レイはクオンとカリンの方に向き直る。


「二人とも集まって下さい。今から救出作戦の内容を説明します」


 レイの声にクオン達が駆け寄る。

 レイは周囲を見回し、全員がこちらに耳を傾けたのを確認してから言葉を紡ぐ。


「それでは概要を説明します。まず自分がひと暴れして敵の隙を作ります。その後にカリンさんの風魔法で敵の音センサーをかく乱して下さい。自分は混乱に乗じて人質を救出します。セツナさんは自分の殿とカリンさん、クオンさんを守る為に遊撃として。クオンさんは回復・補助魔法でのサポートをお願いします」


 レイの説明に首を捻ったのはクオンだった。


「随分とざっくりしていますね。人質の場所などは把握しているのですか?」

「はい、アスが調べましたから間違いありません。それからこれを……」


 レイはパイロットスーツの中から、無線イヤホンを三つ取り出す。


「これは?」

「短距離通信機です。こちら風に言えば、〈テレパス〉を使う為の魔道具です」

「レイ様……そんなモノをいつの間に」

「皆さんが仮眠している間に複製機(デュプリケーター)で作りました。今回は自分と皆さんが別行動をする可能性があると判断しましたので」


 驚きの表情を浮かべるクオン達に、レイは質問に答えつつ使い方を説明。


「ちょっと試してもいいか?カリン……聞こえるか?」

「えぇ!……聞こえるわよ!」


 百メートルほど離れたセツナの呟き声を聞き、カリンが目を丸くする。

 子供の様にはしゃぐ彼らの様子を眺めながら、レイは言葉を続ける。


「ただし、この機械は無線式で相手に盗み聞きされる可能性が非常に高いです。基本的には自分から一方的に話すだけになると思っておいて下さい」

「分かりました」


 イヤホンを右耳に着けながら、クオンが頷く。


「ねぇ、神官様。友達は助かるんですか!」


 クオンの足元に縋りついたファラリスが、上目遣いで問いかける。


「えぇ、勿論ですよ。私達が助けます」


 クオンはいつもの様に努めて笑顔を作りながら、ファラリスの頭を撫でる。

 繊細な手つきで撫でられて、ファラリスが琥珀色の瞳を嬉しそうに細める。

 これから人質救出作戦があると思わなければ、微笑ましい光景だ。


「では行きましょう。人質の安全が心配です」


 レイの声を合図に、四人の瞳に火が灯る。

 まだ……救える命は残っていると心に言い聞かせながら。

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