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第八十一話 連携プレイ

 ランチミーティングを終えたレイ達。

 彼らは今、ヘルスパイダーの手前十メートルの位置まで迫っていた。


「それでは作戦開始です。敵は音を感知しますから注意して下さい。手筈通りにお願いします」


 レイの()()にクオン達が黙って頷く。


(どうやら声は漏れていない様だな。やはり魔法とは凄いモノだ)


 レイは胸中で感嘆の息を漏らした。

 少し状況を整理しよう。

 今、レイはクオン達に()()()()()

 音センサーで周囲の状況を感知するヘルスパイダーは目の前でだ。

 にも拘わらず、未だ敵はレイを感知できていない。


 これはカリンの風魔法〈サイレンス〉によるモノだ。

 〈サイレンス〉は被術者の周辺を空気の膜で覆い、音を遮断する魔法だ。

 本来は敵の指揮系統をかき乱す為に用いられるかく乱用の魔法なのだが、音センサーを誤魔化すにはうってつけだ。


 レイは慎重に、ヘルスパイダーが〈サイレンス〉の効果範囲に入らない様に注意しながら指揮官機と思われる銀色の個体に近づく。

 そして……


「くらえ!」


 レイはコンバットモードで身体強化し、ビームブレイドを振り上げ一閃。

 ヘルスパイダーのギラニウム装甲をバターの様に切り裂く。


『A一〇三ロスト!侵入者警報!敵、消音装置を装備!至急来援を請う!』


 暗い地底を埋め尽くす緊急警報(レッドアラート)

 ヘルスパイダーの群れがレイに殺到する。


 実は消音により音センサーを誤魔化す手法は、銀河同盟内でもよく使われるありふれた方法だ。

 故に宇宙艦隊の兵器にはこれに対する対策も行われている。

 簡単に言えば、不自然に音がしない場所も警戒されるのだ。


 無数のレーザー兵器がレイを襲う。

 眩い白色閃光をひらりと舞うように躱しながら、レイはハンドシグナルでカリンに魔法を切る様に指示。


「こっちだ!ウスノロ!」


 音が蘇った瞬間、レイはまるで狙って下さいと言わんばかりにヘルスパイダーを挑発する。

 当然、約五十機二百五十門の銃口はレイへと向く。


(チッ!やはり攻撃は難しそうだな)


 予想はしていたが全く隙が無い。

 相手はおそらく敵を殺す為に作られた戦闘用AIだ。

 数の有利を利用し、じわじわとレイを追い込み、そして確実に仕留めるつもりだ。

 その証拠に攻撃には必ず一ヶ所だけ逃げ道が用意されており、ゆっくりだが確実に壁際まで追いやられている。


 今はまだ持ち堪えられているが、いずれやられる……


 …………まさに予想通り。


「セツナさん!」


 レイが後方に控えるセツナの名を叫ぶ。


「承知!」


 セツナの口元が了承の意を唱える。

 その右手には刃渡り七十センチほどの美しい曲線を描く片刃の刀。

 これはレイがギラニウムで作ったモノで、元々アヤメに渡すつもりだったが、今回はセツナに貸与。


「カリン!援護頼む!〈風刃乱舞(ふうじんらんぶ)〉!」

「はい!〈ワイドサイレンス〉」


 カリンが〈ワイドサイレンス〉でこの場一帯の音を消し去った所に、セツナが放つ無数の風の刃が黒のヘルスパイダー達を襲う。

 〈風刃乱舞〉はその名の通り、剣から無数の刃を飛ばす技。

 その威力は術者の剣の腕と獲物の強さに依存する。


 音も無く一瞬で十を超える黒のヘルスパイダーが爆散。


「〈ワイドサイレンス〉解除、〈サイレンス〉発動」


 それと同時に、カリンが消音範囲を元に戻す。


『友軍機、十三機ロスト!原因不明!』


 敵戦闘AIは明らかに混乱していた。

 それもそのはず。

 いくら宇宙艦隊の戦闘兵器でも、一瞬だけ無音になる事態なんて想定していない。

 しょせんAIは人間の有機的な動きにはついて行けないという証明なのかもしれない。


「そこだ!」


 レイが混乱に乗じて、二機目の銀ヘルスパイダーを切り裂く。

 爆音が洞窟内を支配する。


『敵発見!速やかに殲滅せよ!』


 ヘルスパイダーの銃口が再びレイへと向く。

 だが、先ほどの爆音が洞窟内で反響しているせいか、その射撃は正確性に欠き、数が減ったせいで弾幕もかなり薄い。


「おぉ!」


 こうなってしまえば、もはやレイの敵ではない。

 すり抜けざまにヘルスパイダー達をバッタバッタとなぎ倒す。

 もう完全に消化試合だ。


 セツナ達の加勢もあり、鋼鉄の蟻達は瞬く間に爆発四散した。


「よぉ!レイ君!お疲れさん!」

「お疲れ様です」


 右手を高らかと上げる喜色満面のセツナにレイがパンっとハイタッチ。

 一瞬で複数の敵を薙ぎ払う彼の火力は圧巻だった。


「お疲れ様です、レイ様。お怪我はありませんか」

「はい、おかげさまで」


 笑顔で出迎えるクオンにレイも笑顔で返す。

 今レイが言った言葉は別にお世辞ではない。

 戦闘中、レイはクオンの神聖魔法〈チャージ〉で常時疲労回復して貰っていた。

 息も切らさず、怒涛の攻撃を躱し続けられたのも(ひとえ)に彼のおかげだった。


「お疲れ様。あれでよかったかしら?」

「はい、完璧です」


 柔らかく微笑むカリンにレイは頭を下げる。

 彼女の消音でのかく乱は完璧だった。


 今回の作戦で回避しないといけなかった事は二点。

 一つはクオン達後衛が敵に発見される事。

 そしてもう一つは敵がレイを見失う事による無差別攻撃。


 つまりレイを囮にしつつ、後衛は見つからない状態を維持する為のバランス感覚が非常に重要になってくるのだ。

 この点を完璧にこなしてくれたカリンには頭が上がらない。


「では移動しましょう。今回の要領で敵を各個撃破していきます。アス、最適な待ち伏せポイントを割り出してくれ」

『了解……』


 こうしてレイ達は初戦を無傷で快勝した。

 だが、戦いはまだ始まったばかり。

 レイは気合を入れ直し、次のポイントへと走るのであった。

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