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第七十九話 土の四大精霊ノーム

 救星の旅二十九日目。

 レイはクオン、セツナ、カリンと共に、王都グランソイルから東へ十キロほど歩いた山中にある一際歴史を感じさせる建物までやって来た。


「ここがノームの聖殿……だいぶ痛んでるなぁ」


 先頭を歩くのは剣士兼斥候のセツナ。

 続いて祈祷師のカリンと神官のクオンが中央。

 最後尾が武闘派軍人のレイ。

 後衛の二人を前後で護る為の隊列だ。


 聖殿の入り口を調べるセツナの声はおっかなびっくり。

 歴史を感じさせると言えば聞こえはいいが、要は苔むした古びたオンボロ神殿。

 しかも王家が秘匿している関係上、まともなメンテナンスもされていない。


「そうですね。アスに建物の構造解析をさせます」

「あぁ、頼む……しかし便利だな。お前さんの世界の精霊は……」

 

 パッと見、石造りのしっかりした構造なので倒壊の恐れは無いだろうが、それでも用心に越した事は無い。

 レイは脳内でアスに解析を指示。


『解析完了。建物の強度問題無し。ただし建物内での戦闘行為は厳禁』


 無機質な機械音声が山中に響き渡る。


「う~ん……どうにも慣れないわね。別にアスさんが悪いわけじゃないけど」

「だな。いきなり服から声が出たらビビっちまう」


 アスの音声にカリンとセツナが肩を小さく震わせる。

 昨日、トワと通信した時よりはマシだが、やはりカルチャーショックはどうにも拭えないのだろう。


「無理もありません。こちらには勝手に喋る魔道具はありませんから」


 笑顔のクオンが二人をフォロー。

 そういえば、クオンも初めてアスの声を聞いた時は驚いていた様な……


「レイ様……余計な事は仰らなくて結構ですよ」


 笑顔のクオンから平坦な声でプレッシャー。

 レイは少し目を見開き、黙ってこくこくと頷く。


『建物の地下に空洞有り。強度は充分の為、極めて大きな衝撃を与えない限りは崩壊の恐れ無し。オーバーリミットモードの使用は非推奨』


 レイ達が横道に逸れそうになった所に、アスの声が方向修正。

 平坦な機械音声にレイは我に返る。


「入っても問題なさそうですね。セツナさん、先行お願いします」

「あぁ……分かった」


 アスの声に驚いていたセツナも、レイの声で我に返る。

 セツナは重そうな石造りの扉に手を掛け、ギギィーっと音を響かせながら押し開ける。



 薄暗く、だだっ広い室内。

 永年締め切られていたせいか埃っぽい。

 レイは咳き込みそうになるのを抑えながら注意深く屋内を観察。


「あれは……なんですか?」


 レイが指し示した先には祭壇。


 まず、目についたのは祭壇にこびりついた苔がほんのりと光っている事。

 発光植物の類だろうか。

 光が入ってこないこの空間では貴重な光源だ。


 次に目に飛び込んで来たのは大きさにして三メートル以上はあるだろう、威厳に満ちた老男性の彫像。

 王冠にマントといった装飾から像のモチーフは王族……おそらくグェインが言っていたノームと契約した初代国王だろう。


 そして最後に、苔とは別にフワフワと瞬く無数の光球。

 入って来た直後は本当に微かだった淡い緑色の光は、点滅しながらその光量を増していき、今は夜空に輝く天の川の様だ。

 レイは勿論、この場にいる者全員がその幻想的な光景に見惚れていると……


『我の求めに応じ、よくぞ馳せ参じた。誠に大儀である』


 太く、威厳に満ち、どこか尊大な老人の声が聖殿に響く。

 発信源は祭壇に浮遊する光球からだ。


『警告。祭壇より高エネルギー体の発生を確認』


 アスが平坦な機械音声で警告(アラート)を発する。

 レイは最前列の全員を護れる位置に歩み出て、建物全体を警戒する。


『うぬが『救星の種』か。王の前で不敬であろう。頭を垂れて跪け』


 尊大な声と共に光球が蠢き、みるみる姿を変える。

 それは祭壇に祀られた彫像そのものの王冠とマントを羽織った威厳に満ちた老人。

 身長こそ、この中で一番小さいカリンより小さく、トワよりは僅かに大きいくらいだが、その威圧感はイフリートと比較しても遜色ない。

 レイがその存在感に圧倒されていると……


『相変わらず偉そうですね。一番新参者の癖に』


 突然、レイのパイロットスーツから凛とした女性の声。

 その声の不機嫌さにこの場にいる者全てが息を呑む。


『その声は……ウンディーネ』

『はい、お久しぶりです。ノーム』


 先ほどまでの尊大さが嘘の様に震える老人ことノームの声。

 ノームの態度の変化に満足したのか、ウンディーネの声は少し上機嫌。


『うぬが何故……』

『あなたこそ、なんでそんなに偉そうなんでしょうね。ここにいるレイ様が『救星の種』だという事はご存じでしょう?』

『それは……』


 ウォータージェットよりも切れ味が鋭いウンディーネの言葉にノームがたじろぐ。

 声質こそ柔らかいが、彼女はかなり怒っている様だ。

 昨日も通信で彼女と話したが、どうも『救星の種』に絶対的な忠誠心を捧げている節がある。


「ウンディーネさん。どうやって通信を……」


 猫に追い詰められたハムスターの様に震えるノームが少し憐れに思えたからだろう。

 レイは疑問を口にして話題を逸らす。


『レイ様、私の事は呼び捨てでウンディーネとお呼び下さい。敬語も無しです』

「……分かった、ウンディーネ。それでどうやって通信に?」

『アス様に協力して頂きました』


 朗らかなウンディーネの声に、レイは頭痛を必死で堪えた。


(アス……)

(私とあちらの分体はリアルタイムで情報共有しております。ウンディーネは分体とデータリンクしている為、同じく情報共有がなされています)


 完全に情報漏洩だ。

 そういえば、今の設定だと宇宙艦隊にも情報が駄々洩れになってしまう。

 設定とパスワードを変更して、新しいセキュリティを構築しなくては……

 などと現実逃避していると……


『ノーム、早く本題に入りなさい。恐れ多くもレイ様やクオン様、トワ様のご両親をお呼び立てしたですから…………もしも下らない用件だったら……分かっていますね』

『あぁ、勿論じゃ』


 幻想的な登場をした威厳に満ちた土の四大精霊ノームは何処へやら。

 青ざめた表情で通信機器のバイブレーターの様になった老人に憐みを禁じ得ない。


「ウンディーネ。トワの訓練は大丈夫なのですか?」


 あまりにも可哀そうだったので、レイはウンディーネの相手を引き受ける事にした。

 普通なら放っておく所、わざわざ苦労を買って出るあたり、自分の救い難い性質(サガ)にため息を吐きたくなる。


『大丈夫です。イフリートが再生するまで休憩中ですから』

「……」「……」「……」「……」『……』


 聞くんじゃなかった。

 イフリートを再生状態に追い込んだ。

 そう、さらりと口にする優し気な声に、ノームのみならず全員が震え上がる。

 四大精霊最強にして最凶の名は伊達ではないらしい。


『レイ様。そろそろお暇させて頂きます。イフリートの再生もようやく終わったみたいですし』

「はい」

「ウンディーネさん。くれぐれも、ほどほどに、お願いしますね」

『勿論です。トワ様のお母様』


 上機嫌なウンディーネが通信を切る。

 一言一句はっきりと区切りながら念押ししたカリンの言葉は届いているのか。

 レイは一抹の不安を覚えながらノームに向き合う。


「……ノーム様。ご用件をお伺いしても」


 レイが最初の要望通り、ノームの前に跪こうとするが……


『お辞め下され!そんな事をされてはウンディーネのヤツに殺されてしまう!儂の事はノームで結構ですじゃ!敬語も要りませぬ!』


 こうして、パーティー内のヒエラルキーは決した。

 哀れな老人こと土の四大精霊ノームの要件とは如何に。

 事が始まる前に、既に疲れ気味のレイだった。

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