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第六十五話 トワの旅その三~学友との再会~

 救星の旅二十五日目。

 トワが旅立ってから三日目の昼。

 トワを乗せた高速馬車はアクアテラスの地に辿り着いた。


「う~ん!ここは相変わらず賑やかだねぇ」


 長時間馬車に揺られて痛む腰を抑えながら、トワは久しぶりの都会を見渡した。


 ユルゲン連邦の首都アクアテラスは港町として栄えている貿易都市。

 このユーゲント大陸のみならず、ルミナス全土からありとあらゆるモノが集まるこの惑星でも有数の大都市だ。

 先日立ち寄った公国の首都セイレーンも荘厳で美しい街並みが自慢の大都市だったが、ここと比較すると活気と規模の面で一段劣る。


 海風で焼けた肌の漁師が新鮮な魚を売る声。

 カラフルで魅惑的な異国の野菜や果物を売る威勢のいい商人。

 怪しげなアクセサリーを売るよく言えば神秘的、悪く言えば胡散臭い露天。

 多種多様、種々雑多、玉石混交。

 モノで溢れ返った光景はまさに豊かさの象徴。


 それらを求める雑踏で溢れ返る市場を、トワはキョロキョロと見回しながら歩を進めていると……


「あ~ら。その可愛らしいツインテールはトワさんではありませんか?」

「げっ!シャルロッテ」


 頭の後ろから響く、聞き覚えのある甲高い声にトワは思わず眉をひそめる。

 トワが嫌々振り返ると、そこには予想通りの人物。

 フランス人形の様な金髪縦ロールの今にも「お~ほほほほ~」と高笑いしそうなお嬢様の姿。

 独特のノリを持つ彼女にトワは思わずげんなりした声を返す。


「げっ……とはご挨拶ですわね。せっかくお友達のわたくしがわざわざお出迎えして差し上げましたのに」

「アタシ、こっちに戻ってくるって誰にも言ってないんだけど……」

「そんなもの無くったって、わたくしの占星術にかかれば」

「ストーカー行為やめてよね……授業サボってまで」


 シャルロッテ=エトワールの蛮行にトワはがっくりと肩を落とす。

 レイがプライバシーを侵害した時、過剰に反応したのはお年頃というのもあるが、彼女の影響も多分にしてあるのだ。


「そんなこと仰って、本当はわたくしの事が大好きな癖に」

「うぜぇ、果てしなくうぜぇ」


 熱気に満ちた市場の中で、腕に抱き着くシャルロッテが暑苦しい。

 そんな一方的な好意にトワの態度は果てしなく辛辣。


「あら?トワさん。昔はそんな乱暴な言葉を使っていらっしゃらなかったのに……それに……くんくん……男の匂いがぁああああああ!」

「やかましい!あんたは犬か!」


 目の前の変態淑女にトワは声の力の限り声を荒げる。

 乱暴な言葉遣いを覚えたのは、多分アヤメのせいだろうが、まさかこんなにも早く実践の機会に恵まれようとは……

 これが魔法学校で一番()()な学友だと思うと、涙が零れそうになる。


「冗談は置いておきまして……トワさん、どうして急に?」

「もしかして、イナンナ達がまた何か?」

「えぇ、流石に察しが宜しいですわね」


 トワは一人の学友の顔を思い浮かべ、特大のため息を一つ。


 イナンナ=フォン=シュテルブルク……魔法学校総合首席の秀才でワルツブルク王国の名門貴族の出。


 家柄、実力共に堂々たるものだが、魔法学科ではトワに負けている事もあり、何かとちょっかいを掛けてくる面倒な相手。


「あのプライドの高いお嬢様の事だからね。アタシがいない間、勢力を広げて、こっちを除け者にしたり、嫌がらせをしたりくらいはするだろうね」

「元々、一匹狼気質のトワさんにそんなことしても無駄だと思うのですがね」

「価値観の相違ってヤツ。まぁ、あの子にも色々あるんだろうけど……それに関しては置いておくとして」


 碌でもない想像にため息を一つ。

 余り愉快ではない未来にトワの表情が僅かに曇る。


「シャルロッテ。あんたは良いの?アタシなんかと話して」

「あら?わたくしを心配してくださるの?やっぱりトワさんはわたくしの事が大好……」

「あぁ!ウザい!アタシのとばっちりで迷惑かけたら目覚めが悪いだけ!」


 トワは殊更、語気を強めて言い放った。

 相手は上級貴族のお嬢様だというのに、この能天気な学友は……


「まぁ、ご心配には及びませんわ。わたくしの実家がどこかくらいご存じでしょう」

「……そういえばそうだったね。エトワール商会会長ご令嬢様」

「トワさん!その言い方好きじゃないって以前言いましたわよね!」

「あっ……ゴメン」


 プリプリと頬を膨らませるシャルロッテの碧眼がトワを睨み付ける。

 トワは慌てて頭を下げる。

 シャルロッテは大富豪の娘という理由で壁を作られる事を好まない。


「まぁ、いいですわ。それより本題。どうして急に戻ってこられましたの?トワさんの事だから、契約休暇をフルに使うと思っておりましたのに」


 能天気な癖に妙に鋭い学友の視線がトワを突き刺す。

 彼女の指摘通り、トワは当初、精霊契約の為に設けられた長期休暇を丸々グラーフ草原で過ごすつもりだった。

 どうやら、隠し事は難しそうだ。

 もし変にはぐらかせば永遠に付き纏われる事だろう。

 そう、トワがげんなりしていると……


(マスタートワ。シャルロッテから離れたいのなら実力行使が最善と提案)

「おバカ!」


 脳内に響くアスの()()()()()提案。

 トワは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「トワさん?一体何を?」

「あっ!ゴメン。シャルロッテに言ったんじゃないの」

「じゃあ誰に?」


 シャルロッテはいきなり罵声を浴びせられた事でしかめ面。

 宝石のように透き通った碧眼をじっとりと曇らせながらトワににじり寄る。


「分かった!ちゃんと説明するから」

(マスタートワ。一般人を巻き込むのは非推奨)

「一体誰のせいよ!!」


 こうしてトワは大変不本意ながら、魔法学校の学友シャルロッテを精霊契約のお供にする事になった。

 シャルロッテへの弁明と説明に半日ほど要して、グロッキーになったのはまた別の話。

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