第六十二話 スニーキングミッションその二
夕暮れ時。
リーフ宅への不法侵入からしばらく。
レイとリーフは街外れの倉庫街にやって来た。
「ここに爺ちゃんがいるんだよね」
「あぁ」
不安そうな顔を浮かべるリーフにレイが淡々と返事。
「でもどうするの?見張りがあんなに……」
リーフの祖父が捕えられていると思しき、木造二階建ての大きな倉庫には三人一組に分かれた見張りが十組以上。おそらく中には最低でも九人以上の見張りがいるだろう。
(アス。状況を)
(解析中……屋外には三人一組編成見張りが十五組。屋内には九人一組の護衛が五組。最短ルートで侵入した場合、最低でも屋内の護衛三組と戦う必要あり)
アスの情報によると、リーフの祖父が監禁されている場所は倉庫の二階にある小部屋で、入口から一番遠い場所だ。
見張りがリーフを追いかけてきた連中と同程度の実力なら倒すのは容易だろう。
だがリーフと祖父を守りながらとなると中々に難しい。
「リーフ。あそこの倉庫に隠れていてくれ。すぐに戻ってくる」
「えっ……うん」
レイはリーフの祖父が捕えられた倉庫から少し離れた別の倉庫を指差しながら指示。
彼も素直に頷く。
リーフの生体情報は既にスキャン済みだし、危機的な状況になる前に助ける事も可能。
後顧の憂いを断った所でレイはホログラフで姿を消した。
倉庫内。
狭く薄暗い小部屋の中、老人は手足を縛られ床に転がされていた。
「おい、あのジジイ。何か喋ったか?」
「ダメですね。だんまりですわ。軽く痛めつけてやりましたが、王国学術院の考古学者としての誇りとか、歴史的な発見を馬鹿どもの汚い手に触れさせないとか、一点張りで」
「聞いていた通りの強情さだな。肩書だけは大層な貧乏学者の分際で。まぁ、ウチに金を借りたのが運の尽きなんだがな」
「でもいいんですかい?いくら借金のカタだからって、国の重要文献なんでしょう?」
「だから……だよ。そういうブツは好事家に高く売れるんだ」
「いや、俺はリスクの話をですね」
「リスクがあればこそ、吹っ掛けられるってもんよ」
背が低く、小太りで、首や指にジャラジャラと宝石を付けた悪趣味な男と、その腰巾着と思しき痩せぎすのチンピラが小部屋から離れていく。
二人の姿が完全に見えなくなったところで、老人が閉じ込められていた扉が勝手に開く。
「うぅ……うぅ……」
微かに聞こえる老人のうめき声。
そこにコツコツと歩みを進める透明な足音。
(生体反応の低下を確認。暴行を受けた事による負傷と極度の衰弱が原因)
ホログラフで透明になったレイの耳元でアスが警告する。
あまり悠長な事はしていられない様だ。
レイはパイロットスーツの中から、無針式のピストル型注射器を取り出す。
この中には医療用のナノマシンが封入されており、血液から全身に回る事で自己回復力を高めてくれる。
これもシーサーペント戦後に作ったものでストックはこれを含めて三個。
製造コストが高く、使った直後極度の睡魔に襲われる為、あまり乱用はできない。
(老人のバイタル安定)
アスの声が危機を脱した事を告げる。
レイはぐっすりと眠る老人を抱え、部屋の壁へと近づく。
そして……
バキッ!
強かに蹴りつける。
轟音と共に壁に大穴が空く。
レイは自分と老人を透明にしてから大穴から脱出。
「なんだ!今の音は!」
物音に気付いた見張りが殺到するが時すでに遅し。
部屋は木片が散らばるだけのもぬけの殻となっていた。




