第六十一話 スニーキングミッションその一
昼食時。
レイはリーフから渡された屋台のサンドイッチを頬張りながら行動方針について考えていた。
「リーフ。お爺さんが監禁されている場所は分かるのか?」
「ううん……分からない。俺はあいつらが家に押し掛けた時に窓から逃げたから」
「では、監禁されているのかどうかも分からないのか」
「……でも逃げ場は無かったし、多分捕まってる」
「そうか……」
完全にノーヒントからのスタート。
レイはシャキシャキの野菜とジューシーな肉の旨味に舌鼓を打ちながら、思考に没頭する。
「レイ兄ちゃん。なんかいい案ある?」
不安そうな表情でリーフがこちらを覗き込む。
「ひとまず、現場に行ってみよう」
「でも奴らがいるかも」
「そうだな。では見つからない様に行こう」
「???」
レイはサンドイッチを手早く平らげ歩き出す。
同じくサンドイッチを頬張りながら首を傾げるリーフの手を引きながら……
……歩く事しばし。
レイ達は暗い裏路地の一角にある薄汚れた家……リーフの自宅の前へとやって来た。
「来ては見たけど、これからどうすんの?」
不安げな声でリーフが問いかける。
家の前には見張りとして厳つい男が二人。
リーフが戻って来た所を捕まえようという魂胆なのだろう。
「そうだな。リーフ、少し《《魔法》》を使う。何があっても自分の手を離さない事。音を立てない事。いいな?」
「う、うん」
平坦なレイの指示にリーフ手をつなぎながら小さく頷く。
「ホログラフ起動」
レイはパイロットスーツに搭載された機能の一つホログラフを起動。
レイとリーフの姿がみるみる透明になる。
「えっ⁉身体が!」
「リーフ、静かに」
驚きの声を上げるリーフ。
それをレイが小さな声で制止。
ホログラフは対象に映像を被せる事で、見た目を偽装する機能。
今まではレイのみが対象だったが、シーサーペント戦での反省を活かし、対象をレイが触れられる範囲に拡張した。
「さあ、行くぞ」
「う、うん」
足音も立てずに進むレイに手を引かれながら、リーフも静かに歩き出す。
彼らが向かったのはリーフが逃げ出した時に使った窓。
「中は……誰もいないようだな」
「だいぶ荒らされてるみたいだけどね」
見張りに警戒しながら、レイ達はこっそりと家の中に侵入。
机の引き出しもタンスもひっくり返されて散々な有様だ。
物音を立てない様に慎重に歩を進める必要がある。
「リーフ。この中にお爺さんの私物はあるか?できれば体毛か血液を採取したい」
「えっ?あるけど……」
リーフは首を傾げながら、祖父お気に入りの帽子を取り出す。
レイはそれを受け取り、帽子に付着した髪の毛を抜き取る。
「そんなもの何に使うの?」
「生体サンプルだ」
レイは短く答えた後、頭の中でアスにスキャンするように指示を出す。
(解析完了。体毛の持ち主の所在を特定)
レイの頭の中にいつもの機械音声が響く。
「お爺さんの居場所が特定できた。もうここに用はない」
「えっ?」
レイは困惑するリーフの手を引きながら、その場を静かに立ち去る。
侵入した痕跡を一つも残さずに……




