第五十八話 トワの旅その一~旅の仲間~
廃墟の港町で全員が一時解散した直後。
透き通るような真っ青な空の元、トワは街まで送ろうかというレイの申し出を断り、一人ユルゲン連邦へと歩き出した。
「じゃあ、これから宜しくね。えーえすぜろさんさん」
『マスタートワ、敬称は不要。私の事はAS03とお呼び下さい』
公国から連邦に向かう道すがら。
トワはレイに作ってもらった(おねだりした)銀色のロケットペンダントに話しかける。
これにはレーダーとトワをサポートする為に支援AI、AS03が搭載されていた。
『不必要な会話は非推奨。私はあくまでも精霊探索のサポートとして作り出された分体。貴方を楽しませるような機能は完備していない』
トワはロケットペンダントから聞こえる無機質な機械音声に笑いかけた。
「えーえすぜろさんって結構優しいんだね」
『理解不能。何故そのような回答に辿り着いたか、思考の開示を要求』
「だって、アタシが楽しめない事を気に掛けてくれたじゃん」
『私は事実を述べたにすぎない。そもそも私に感情は存在しません』
「そっかな?アタシは感情豊かだと思うけど……」
『……理解不能』
ニカッと笑うトワの耳には、無機質な機械音声が戸惑っているように思えた。
「そうだ!せっかくだから名前を付けよう。えーえすぜろさんじゃ呼びにくいから」
『非推奨。呼称を複数持つ事は、会話や思考の混乱を招きます』
「えぇ~!なんで~!いい案だと思ったのに!」
『理由は先ほど説明した通りです』
「いいもん!じゃあ勝手にあだ名付けるから!」
無機質な機械音声にトワは頬を膨らませる。
「えーえすぜろさんだから……エース……アス……う~ん、どっちがいいと思う」
『……アスを推奨』
「理由は?」
『簡素で機能的な名称だと判断』
「むぅ~、それって短いからって意味だよね!」
トワはロケットペンダントをジトっとした目で睨む。
まったくこんなとこまで作り主に似なくても……一瞬そう思ったがそれも束の間。
トワはいつもの快活な笑みを浮かべる。
「じゃあ、改めて宜しくね。アス」
『……了解、マスタートワ』
きっと人間ならため息の一つも吐いていた事だろう。
無機質なアスの声がどこかレイが呆れている時に出す声と似ているような気がした。
『マスタートワ。今後のプランについて提案したいのですが』
「ん?どんな?」
『ここから目的地であるユルゲン連邦まで、徒歩だとおよそ五日の行程。時間短縮の為に移動手段の確保を推奨』
アスの提案にトワは小さく頷いた。
「そうだね。路銀はお兄さんからたっぷり預かっているし、高速馬車でも使おうかな」
トワは頭の中で王国と連邦を一日で結ぶ高級馬車を思い浮かべた。
『なるほど、ルミナスには魔道具で馬を強化した乗合馬車があるのですね』
興味深そうに呟く機械音声にトワはギョッと目を見開く。
「なんで分かったの⁉」
『マスタートワの脳波からイメージ情報を読み取りました』
「えっ!そんな事もできるの!」
『肯定。もし不快なら今後、マスタートワから読み取った情報は口外しない様にします』
「そうだね……人に頭の中を覗かれるのってあんまりいい気分がしないし……」
トワは思わずため息を吐いた。
どうせなら読み取るのを辞めて欲しいがきっと聞き入れないのだろう。
任務に支障をきたすとか理由をつけるに決まっている。
『魔法や魔道具は興味深い。我々の科学技術とは違った大系のテクノロジーというモノは同じテクノロジーの産物として心惹かれます』
「随分饒舌なんだね」
『急ごしらえで作られた為、《《私》》の疑似人格はマスターレイの影響を強く受けていると推測』
「あぁ……お兄さん、魔法の事になると子供みたいになるから」
トワはクスリと笑った。
こうしてアスと話していると、まるでレイと一緒に旅をしているのではないかと思えてしまうから。
「まずはロンディア。それから一路連邦の首都アクアテラスだね」
こうしてトワとアスの凸凹コンビの旅が始まった。




