第五十三話 再戦その五
廃墟の港町の海岸。
クオンは体の力が抜ける感覚に襲われながら、雲一つない青空を眺めていた。
「あっ!クオンさん、いた!」
「ラファエル?どうしたんだい⁉いったい!」
クオンに駆け寄る足音。
そちらに目を向ければ、アヤメの小脇に抱えられたトワの姿。
全力疾走したのか、アヤメは少し息を切らしていた。
「クオンさん。お兄さんは?」
「トワ様……あそこです」
クオンは苦々しい表情で煙を上げるシーサーペントを指差す。
「ちょっ!まさかあれを一人でやったってのかい!」
「はい……そして今も戦い続けています」
クオンは光り輝く天使ラファエルに視線を向けながら吐き捨てた。
今もクオンの体内から魔力が消費されていく。
レイは今も傷つきながら戦っている。
回復の力を送る事しかできない自身にどうしようもないもどかしさを感じていた。
クオンがレイの身を案じていると……
「信じて待ちなされ」
不意に老人の声がクオン達の耳に届いた。
クオンは驚きながら、そちらに視線を送る。
そこには古びたグラーフ族の衣装をまとった老人の姿。
年の頃は六十くらいだろうか。
顔はしわくちゃの癖に腰がピンと伸びているせいでかなり若く見える。
「こんなところになんで爺が?とお思いでしょう。『神の薬』クオン=アスター殿、『三式』アヤメ=スズバヤシ殿、そしてトワ=グラーフ殿」
クオンは目を見開いた。
自分達の事を知っているからだけではない。
しわくちゃ顔の老人が発するしわがれた声に不思議と聞き覚えがあるような気がしたからだ。
トワとアヤメも同じ感想を抱いたのだろう。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべている。
「まずは名乗っておきましょうか。わたくしは……マオ……とでもお呼び下さい」
「偽名ですか?」
「はい」
クオンの問いに老人マオは微笑んだ。
その表情は老人特有の何かを懐かしむような柔らかなモノだった。
「お爺ちゃんはなんでこんなとこにいるの?こんなとこにいたら危ないよ」
トワが心配そうな顔で問いかけた。
「トワ殿、あなたは優しいですね。ですがご心配無用です。わたくしはただ観測に来ただけですから」
マオはトワの頭を撫でながら目を細めた。
その手つきはとても繊細で優しかった。
「観測って何をだい⁉」
アヤメが眉を吊り上げながら、マオに詰め寄った。
「この戦いが《《歴史通り》》に進むか……です」
トワの頭から手を放し、虚空を見つめるマオ。
その瞳は何処か別の世界を見つめていた。
「信じて待ちましょう。『救星の種』の帰りを……」
それだけ言ってマオは地べたに座り込んだ。
クオンは黙ってその言葉に従った。
不覚にも先ほどまでの不安はどこかへ消え失せていた。
場面は変わって、シーサーペント中枢。
ガ=デレクがガトリングガンを乱射。
凶弾がレイを襲う。
「くたばれ!!」
爆音と共に迫る無数のつぶて。
レイはそれを横っ飛びで回避し、ガ=デレクの右側面を取る。
死角に入ったレイは一足飛びで距離を詰める。
「お見通しなんだよ!」
ガ=デレクの叫びに呼応して、部屋の壁から無数の機銃が姿を現す。
「今度こそハチの巣だ!」
レイを取り囲むように無数の弾丸が飛来。
レイは弾幕が最も薄い右方向へと回避。
「かかったな!間抜けが!」
そこに待ち構えていたのはガ=デレクのガトリングガン。
レイはまんまとしてやられた……などとは思わなかった。
「おおぉおおおおお!」
ガ=デレクが行ったのは、逃げ道を作って罠に誘うという基本中の基本。
そんなモノを見抜けないレイではない。
レイは迫りくる弾丸をビームブレイドで薙ぎ払う。
「チッ!バケモノめ!」
弾幕をかいくぐりガ=デレクは距離を詰めるレイに対して、手のひらサイズの金属筒を投げつける。
「チッ!」
レイは舌打ちしながら、大きくバックステップ。
その直後、筒は破裂し白い煙を上げる。
「クソ!勘のいい!」
ガ=デレクは悪態をついた。
筒の中身は強酸。
とっておきだったのだろう。
煙が触れた場所はドロドロに溶けていた。
「よく言う!」
レイはガ=デレクに釣られて悪態をつく。
強酸こそ不発だったが、レイはまたしても攻撃のチャンスを潰されてしまった。
壁から、天井から、地面から生えるは隠れる機銃の群れ。
分厚い弾幕相手に防戦一方を強いられる。
「ちょこまかと!」
ガ=デレクは苛立ちながらも、ガトリングガンと機銃でレイを追い詰める。
(AS03、機銃の位置データは?)
(解析完了、データ表示)
レイは脳内に機械音声が響く。
ヘルメットのディスプレイに映し出される機銃の配置。
「そこか!」
レイは獲物をビームブレイドからフォトンガンに持ち替え、機銃をピンポイントに打ち抜く。
「はぁ!?ふざけやがって!」
ガ=デレクは激昂した。
小さな爆発音と共に次々に機銃が吹き飛ぶ。
機銃が隠れている間はギラニウム製の壁や天井に護られているからフォトンガン程度では打ち抜けない。
かといって、ビームブレイドで壁や天井ごと切り裂こうとしたら、その隙にハチの巣にされる。
そこでレイが取った行動は、機銃が剥き出しになる攻撃の瞬間を打つ抜く事。
時間にしてコンマ数秒。
この間に機銃を回避しながら、照準を合わせて打ち抜く……
いくらパイロットスーツで強化されていたとしても人間業ではない。
ガ=デレクは目の前の理不尽に怒り狂っていた。
「終わりだ!」
怒りで隙を見せたガ=デレクの懐にレイが飛び込み……
横一閃。
レイのビームブレイドがガ=デレクを胸から上下に真っ二つに切り裂く。
「クソ……が……」
ガ=デレクの銀色の体躯がバタンと地に臥す。
動力源が無くなった事でシーサーペント艦内の照明が落ちる。
「任務完了……」
レイのパイロットスーツからも光が消える。
オーバーリミットモードの過剰使用によるエネルギー切れだった。
軋む身体。
痛みに耐え続けた精神はズタボロ。
疲労困憊の中、レイはその場に寝そべった。




