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第五十話 再戦その二

 炎に包まれた廃墟の中、レイとクオンはシーサーペントへの道を突き進んでいた。


「流石は葉隠れの魔法と言った所でしょうか。敵が素通りですね」


 心底感心した声色のクオンにレイは小さく頷いた。

 今彼らはアヤメの水行霧隠れによって姿を消している。

 トワの炎で熱源センサーを誤魔化し、アヤメの魔法で光学センサーの目を眩ます。

 ソナーについてもトワの炎やブラックファルコン自身のエンジン音のせいでほとんど役に立たないだろう。

 彼らの真上を通り過ぎていくブラックファルコンの群れが何よりの証拠だ。


「結構な数のブラックファルコンがトワ達の方へ向かっています。我々も急ぎましょう」

「そうですね」


 レイの冷静な声にクオンも素直に同意した。


「レイ様。一つ確認しておきたいのですが、私はレイ様が負傷した時の治療要員としてついて来ているのですよね?」

「…………」


 不意にクオンが訝しむような声で問いかけた。

 その言葉にレイは沈黙で応えた。


「作戦会議中に疑問に思ったのですが、トワ様とアヤメ様には事細かく立ち回りを説明していたのに、私には何も仰いませんでした」

「…………」


 レイは沈黙を貫いた。

 やはり彼は頭が切れる。

 おそらくこちらの意図を見抜いているのだろう


「レイ様。あなた……もしかして何か無謀な事をしようとしていませんか?私の治療が絶対に必要になるようなことを……」


 トワやアヤメに言えないような秘密を自分にも抱えろと言うのか。

 クオンの声色はレイを言外に責めていた。


「すみません。あなたにしか頼めない事でしたので……」

「聞きましょう」


 レイは心の底から謝罪した。

 今回の作戦にクオンの手助けは必要不可欠だ。

 強大な敵シーサーペントに勝利する為には、多少のリスクは致し方ない。


 だが、それを口にした時、トワとアヤメが納得するとは思えない。

 結果、クオンを共犯者にする事しかできなかった。

 レイの苦悩を理解したのか。

 クオンも努めて感情を表に出さない様に話を促した……


 …………

 ………………


「…………以上が作戦の概要です」


 レイの説明にクオンは愕然とした。


「……あなたは大馬鹿者です」

「かもしれません。ですが他に方法がありません」


 作戦内容はあまりにも無謀だった。

 クオンは苦々しい表情で言葉を振り絞った。

 おそらくレイの愚行を思いとどまらせたかったのだろう。

 だが、レイの意思は変わらなかった。


「クオンさん。できそうですか?」


 作戦は実行可能か?

 レイはそう問いかけた。


「……はぁ~、どうせ私に拒否権は無いのでしょう」


 クオンは眉間にしわを寄せ、特大級のため息と共に了承した。

 レイは心の中でクオンに頭を下げた。


「着きましたね。作戦の準備を」

「……分かりました。無理だと思ったら速やかに撤退を指示して下さい」


 レイ達は海岸に到着した。

 大海原に浮かぶ巨大な艦影。

 クオンの何度目になるか分からないため息がレイの耳を突く。

 だが、戦士となったレイの心にそのため息は届かなかった。

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