第四十九話 再戦その一
救星の旅二十四日目。
レイ達は再び廃墟になった港町へとやって来た。
「もうそろそろ作戦開始するがトワ、アヤメさん。手筈通りに……」
「分かってるって」
作戦を前にレイとトワがお互いの拳をコツンと合わせて、士気を高める。
「トワちゃんの事はあたいに任せときな。あんたはあのデカブツをぶっ潰す事だけ考えて」
「大丈夫ですよ。レイ様には私がついていますので」
「……ぬかるんじゃないよ。『神の薬』」
「愚問ですよ。『三式』殿」
一方、アヤメとクオンはバチバチと火花を散らす……いや、この表現は正確ではない。
アヤメが一方的に火花を飛ばして、クオンがニコニコ涼しい顔で受け流しているというのが正しいだろう。
お互いの力関係がはっきり見えるようなやり取りに、レイは思わず苦笑いを浮かべた。
「…………それでは、作戦開始!」
作戦の最終確認を済ませる一同。
そして、レイとクオンはシーサーペントに向かって駆け出す。
仲間の援護を信じて……
「それじゃ、あたいらもおっ始めようかね」
「うん!〈召喚イフリート〉!」
トワの身体から真っ赤な光が溢れ出す。
光はメラメラと燃え盛る灼熱の炎に変わり、それが巨大な炎の魔人イフリートへと姿を変える。
『主よ。何用だ』
「イフリート、この辺一帯に適当に炎をまき散らして。ただし省エネモードでね」
『ん?分かった?』
トワは筋骨隆々の魔人に笑顔で命じる。
イフリートは首を傾げながら、廃墟全体に向けて無数の小さな炎を飛ばす。
「うん、いい仕事さね。レイ君の言う通りなら、これでティアマトのれーだーってヤツも誤魔化せるだろう」
「でも油断は禁物。お兄さんが言うにはそろそろ……」
トワは真剣な表情で空を見据えた。
『やっぱりテメェか!オールドライフの末裔!』
トワの視線の先にはシーサーペントの艦載機ブラックファルコンの群れ。
その数およそ十。
「お兄さんの言う通り。イフリートの熱に釣られたね」
「えーえすぜろさんの作戦立案だったっけ?レイ君の世界の精霊は凄いねぇ」
事前に打ち合わせていた通りに進む状況に、トワとアヤメの口元が自然と緩む。
『はぁ!テメェら、もしかして俺を嵌めたつもりか?だとしたらホットチョコよりも甘ったるくておめでたい脳みそだな!ははぁあああああああ!』
ブラックファルコンからこちらを嘲笑うような下品な男の声が響く。
『テメェらは陽動でシュターデンの種が本命なんだろうけどよ……テメェらふん捕まえて人質にすりゃ形勢逆転なんだよ!なんせヤツは仲間を見捨てられないお人好しだからよぉ!』
ブラックファルコンの言っている事は正鵠を射ていた。
トワ達の勝利条件はレイ達がシーサーペント本体を撃破するまで生き残る事。
シュターデンの種とは何か?
何故、レイの性格をほぼ初対面の敵が把握しているのか?
そういう疑問が頭をよぎったが、それに思考を割くだけの余裕が彼女達には無かった。
『まずは足だ!せいぜいいい声で泣いて、あの野郎を釣る撒き餌になりやがれぇぇええ!』
ブラックファルコンの銃口が青白い光を放つ。
次の瞬間、放たれる十本の光の筋。
「おっと!危ない」
慌てた素振りでアヤメがトワを小脇に抱えてバックステップ。
結果、トワの足元に飛来したレーザーは空振り。
『クソ!ちょこまかと!』
回避された事に激昂したブラックファルコンがレーザーを乱射する。
それをアヤメはジグザグに走りながら回避。
「またお兄さんの言う通りになったね」
「ここまで来ると怖くなってくるよ」
トワとアヤメは感嘆と畏怖の声を漏らす。
アヤメは前もって、ブラックファルコンの攻撃の癖を聞いていた。
攻撃の前兆として銃口が光る。
射撃は正確だから、打たれる直前に人間一人分移動すれば回避は容易。
ただし相手も学習するだろうから、避ける際は慌てて見せる。
レイのアドバイスががっちりハマった結果、彼女達はかなり楽に作戦を遂行出来ていた。
「でもどうしよう……このままだとやられちゃうよ」
トワがポツリと声を漏らす。
確かに自分達は当初の予定通り、敵の目を眩ましつつ時間稼ぎができている。
だが、この状態が続けば確実にやられる。
不安と焦りからトワの表情が曇る。
「確かにこの状況は頂けないね。そんじゃ、いっちょ状況の改善に努めるとしましょうかねぇ」
トワの安心させるようにアヤメが微笑む。
その手には一枚の呪符と金属片。
「何?その鉄屑?」
「鉄屑とはヒドいねぇ。前回の戦利品に対して」
アヤメの手にあるのはブラックファルコンの破片だった。
前回レイが撃墜した機体からくすねたのだろう。
アヤメは慣れた手つきで金属片に呪符を張り付ける。
「〈金行刀変化〉!」
金属片はグニャグニャと曲がり、一本の苦無へと姿を変える。
金行刀変化……白山金行呪符の力をもって、金属を自分の望む武器に変化させる魔法。
ブラックファルコンのギラニウム装甲も勿論金属。
つまりアヤメは敵の装甲と同等の武器を手に入れた事になる。
「まだまだ!〈金行刀飛来〉!」
アヤメはもう一枚呪符を取り出し、苦無に貼り付け投擲する。
『なっ!』
苦無は空中で弧を描き、ブラックファルコンを一機撃墜。漆黒の機体から驚きの声が発せられる。
金行刀飛来……白山金行呪符の力をもって、金属武器を意のままに操る魔法。
「さて、材料の確保も出来たし、まとめて片付けるよ!」
思わぬ反撃にブラックファルコンが動きを止める。
その隙を見逃さず、アヤメが撃墜した機体へと駆け寄る。
「〈金行刀変化〉!〈金行刀飛来〉!」
ブラックファルコンの残骸に二枚の呪符をぺたりと貼り付ける。
残骸は無数の苦無に変化し敵へと殺到。
動きを止めたブラックファルコン達は大きな爆発音を上げながら瞬く間に撃墜。
トワ達の周囲には無数の残骸だけが残った。
「お姉さん……凄い」
トワは驚きで目を丸くする。
「そうだろう。これが葉隠れのくノ一の実力だよ」
アヤメが得意満面に豊満な胸を張る。
「これもお兄さんの入れ知恵?」
「……うん」
笑顔のトワから無慈悲な一言。
子供の好奇心から来る無邪気な質問だったのだが、図星を突かれたアヤメは疲れた表情で項垂れる。
「そうなんだ!やっぱりお兄さんもお姉さんも凄いんだね」
ニカッといつもの快活な笑顔を浮かべるトワ。
それとは対照的に落ち込むアヤメ。
トワは知らなかった。
アヤメは手柄を独り占めしようとした自分の心の醜さに打ちひしがれている事を……
その後、トワとアヤメは五十機ほどのブラックファルコンを撃墜し、見事に陽動を成功させるのであった。




