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第四十六話 暴露大会

 ロンディアの宿屋。

 トワが眠る客室にて。


「魔力疲れですね。〈マジックチャージ(魔力補充魔法)〉をかけておきましたので、しばらくすれば目を覚ますでしょう」


 クオンは青白い光に包まれるトワを慈愛に満ちた瞳で眺めながら、その額の汗を優しく拭った。

 熱で乱れていたトワの呼吸は落ち着きを取り戻し、今は規則正しい寝息を立てている。

 その様子にレイもホッと一息。


「……まさかこんな所で『神の薬』に会えるとわねぇ」

「私もまたお会いできるとは思いませんでしたよ。葉隠れのくノ一。『三式』アヤメ=スズバヤシ様」

「…………知ってたのかい?」

「えぇ、私も神官の端くれですから。それなりに知識はあります」


 安心するレイを余所に、剣呑な雰囲気で牽制し合うアヤメとクオン。

 鋭い目つきでキッとクオンを睨み付けるアヤメと、あくまでも柔和な笑みを崩さないクオンが対照的だ。


「クオンさん。『三式』とは?」


 レイは好奇心の赴くままに問いかけた。

 おそらく魔法関連の話なのだろうと思ったからだ。


「あの……アヤメ様。私の口から言っても?」

「構わないさね。お手並み拝見といこうか」


 クオンが困った様に頬を掻く。

 それに対してアヤメは面白がる様な表情。

 この優男が自分についてどれほどの知識を持っているか気になるのだろう。

 クオンは呆れ顔で咳ばらいを一つ。


「まず、アヤメ様は五行の力を操る陰陽道の使い手。五行とは、木、火、土、金、水の五つの力の事を指します。それぞれの力に対応する式神と呼ばれる聖獣と、その力を引き出す為の呪符を駆使して魔法を行使するのが陰陽道です。アヤメ様は若年ながら陰陽道の全五式の内、三式を極めた天才だとか」

「なるほど……それで『三式』なのですね」

「…………」


 クオンが涼しい顔でアヤメの能力を暴露する。

 レイはその博識ぶりに感嘆し、アヤメは無言で顔を引きつらせる。


「では『神の薬』というのは?」


 今度はクオンの二つ名について尋ねた。

 レイとしては公平を保つ為だったのだが……


「それだったらあたいが説明してやるよ」


 知識マウントを取られた事が悔しかったのだろう。

 アヤメが前のめりで手を上げる。


「クオン=アスター。現リシュタニア教会最高の癒し手。神の権能『天使ラファエル』を所持。死なない限りどんな傷でも治すと言われている事からついた二つ名が『神の薬』」

「ほう。ラファエルの事は一応機密情報なのですが、よく御存じで」

「ふん、あんまり葉隠れを舐めるんじゃないよ」

「はい、御見逸れしました」

「……なんかムカつくね。その余裕のツラ」


 涼しい顔のクオンにアヤメが小さく舌打ち。

 可愛げのないクオンの態度にレイも思わず苦笑い。


「なんか楽しそうだね。アタシも仲間に入れてよ」

「トワ!」


 寝起きのフワフワした表情でトワが起き上がる。

 その声を聞いた途端、レイが弾かれたようにトワに駆け寄る。


「トワ!体の方はどうだ?痛い所はないか?」

「ちょっと!お兄さんどうしたの?」


 凄まじい勢いでレイがトワに駆け寄る。

 その様子に彼女は思わずたじろぐ。


「こら、レイ君。落ち着きな。そんなに詰め寄られたらトワちゃんが困るでしょう」

「そうですよ。トワ様はまだ病み上がりなのですから」

「あっ……はい」


 二人に諫められ、レイがそそくさとトワから距離を取る。


「トワ様。お加減はどうですか?」


 レイに代わり、クオンが優しい口調で問いかける。


「クオンさん……どうしてここに……まさか!」


 トワが飛び起き、鋭い声と共に臨戦態勢を取る。


「ちょっ!落ち着いて下さい!私は味方です!」


 クオンが慌てて弁明する。

 彼は公国の神官。

 それも大公閣下直属の……状況を考えればトワがクオンを警戒するのはごく自然な事だろう。


「そういえばどうして『神の薬』がここにいるんだい?さっきまではトワちゃんの事があったからスルーしてやってたけど」

「自分も気になっていました」


 レイとアヤメも首を傾げながら、クオンを問い詰める。


「分かりました。では私がここに遣わされた経緯について話しましょう。少し長くなりますが宜しいでしょうか」


 クオンは笑顔の仮面を被り直し、三人に視線を送る。

 レイ達は居住まいを正し、こくりと頷く。


「あれは八日前……レイ様が脱獄した後の事です……」


 クオンは遠い目をしながらポツポツと言葉を紡いだ。

 その声色は何処か楽しげだった。

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