第四十五話 意外な再会
救星の旅二十二日目。
シーサーペントとの戦いに敗走したレイ達は、戦場から十キロほど離れた所にあるロンディアの街に身を寄せていた。
「アヤメさん。トワの容態は?」
「あんまり良くはないね。熱も下がらないし、完全に魔力疲れさね」
レイとアヤメは宿屋でトワを看病していた。
あれから彼女は目を覚まさない。
魔力の使い過ぎによる疲労が原因だ。
レイは胸に石を抱えたようなどうしようもない不安に襲われる。
「レイ君。病人の前でそんな辛気臭い顔するモンじゃないよ。魔力疲れで死ぬ人間はいないんだから。少し休めばケロッと起き上がるさね」
「そう……ですか……」
アヤメは呆れた様に肩をすくめた。
彼女の言う通りレイは酷く落ち込んでいた。
自分の無力を再認識したからだ。
「そんなに心配なら神官様を探してきなよ。神聖魔法があれば治りも早くなるし」
「……そうします」
アヤメがため息混じりにそう零す。
レイは弱々しく呟いた後、トボトボと外へと歩き出す。
「レイ君……あんたはよくやったよ」
「…………」
レイは無言でその場を後にした。
アヤメの特大級のため息を背に……
意気消沈のレイが向かったのはこの街の教会。
中世ヨーロッパの様な石造りの街に似つかわしい西洋風の佇まい。
この国には珍しいリシュタニア式の教会だ。
アヤメから聞いた話だが、王国は完全に政治と宗教が分かれており、信仰の自由が王の名の下に許可されている。
あくまでも王が許可していると……つまり宗教は王の下だというのがポイントらしい。
レイがこの教会を選んだ理由は特にない。
強いてあげれば宿屋から近かった事と、亜麻色の髪の神官の事を思い出したからだろうか。
そんな事を考えていたからだろうか……
「ただの風邪ですね。体力回復の魔法をかけておきましたので、後は安静にして下さい」
「ありがとうございます。神官様」
教会の扉をくぐると、そこから聞き覚えのある声が聞こえた。
丁寧で柔らかい口調。
女性が聞けばうっとりしそうな甘い男の声。
「次の方、どうぞ」
レイは自分の目を疑った。
「あなたがどうしてここにいるのですか?クオンさん」
レイの声に亜麻色の髪を持つ優男は、金色の瞳を細めて頭を下げた。
「勿論あなたを追ってです。レイ様」
女好きする柔和な笑みにレイは表情を引きつらせた。
「公国の命令で自分を捕られる為にですか?」
「いえ、あなた方の旅をお手伝いする為にです」
柔らかな笑みを崩さないクオン。
相変わらずの完璧な笑顔の武装だ。
その真意が見えない表情にレイは警戒心を強める。
「……レイ様。トワ様に何かありましたか?」
「!!」
小さいが凄みのある声でクオンが問う。
図星を突かれたレイは目を見開いた。
「やはりですか。そうでもなければあなたがこんなところに一人で来るわけがありません」
レイは黙って頷いた。
彼は頭が切れる。
レイがこの場にいるという事実だけで事情を読み取れたのだろう。
レイは心の中で感嘆した。
「レイ様。トワ様の所に案内して下さい」
「はい……」
レイは素直に頷いた。
今のクオンは普段の優男でも、秩序を守る神官でもない。
今の彼は魔法で病人を治療する魔法医師だった。




