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第四十話 アヤメの目的

 レイは肩身を狭くしていた。


「はぁ……早速だけど説明してくれるかい!なんであたいをいきなり殴り倒したのかを!」


 自分が殴り倒した青年アヤメに詰められていた。

 怒り心頭のアヤメにレイもタジタジ。


「申し訳ありません。トワが誘拐されたと思っていましたから」

「そうかい?じゃあなんでこの子がトワちゃんと分かったんだい!」

「レーダーの生体反応で」

「なんだい?そのれーだーってのは!」


 冷静さを失ったアヤメからは怒涛の質問攻め。

 青年は殴られた事は勿論だが、自分が不覚を取った事が許せないらしい。


 ここで、レイが脱獄後に取った行動について軽く説明しておこう。

 まず、ビームブレイドで鉄格子を切り裂き、建物を飛び降りて脱獄。

 その後、広域レーダーでトワの生体反応を確認。

 トワの無事を確認した所でパイロットスーツのホログラフを利用して自身を透明化し、突入という流れだ。


 これはレイが宇宙海賊を摘発した時の話だが、宇宙海賊は人身売買用に誘拐した子供をホログラフで偽装し、宇宙艦隊の目を盗む事があった。

 その経験からトワが少年の恰好をさせられているのは、営利目的の誘拐だと判断。

 推定誘拐犯を殴り倒したというわけだ。


「なるほど……よく分からない言葉ばっかりだったけど、あんたに悪意が無い事だけは分かった」


 レイの答えにアヤメは渋々納得した様子。

 その表情は依然不機嫌なまま。


「まぁ、何はともあれお互い無事でよかったよ」


 二人の間に少年の顔をしたトワが割って入る。

 その表情は若干引きつっていた。


「さて、そうとなればここも引き払わないとね。脱獄犯がいたんじゃおちおちこの街に居座るわけにもいかないしね」


 アヤメはため息混じりにレイに非難の目を向けた。

 レイは申し訳なさそうに頭を下げる。


「あんた達、これからどうするんだい?宛とかはあるのかい?」


 アヤメはトワの方に向き直りながら軽い口調で訪ねる。

 トワは首を捻りながら考え込む。


「う~ん、正直どうすればいいか分からないんだよね。アタシ達の旅の目的って、傍から聞くと胡散臭いし」

「確かにね……」


 アヤメが苦笑いと共に同意する。

 どうやら青年はトワから旅の目的を聞かされているようだ。


「アヤメさんは信じているのですか?自分達の旅について」


 レイは疑問に思った。

 救星の旅の内容は傍から見れば荒唐無稽だ。

 神官達の議論が紛糾したのも、現実離れした内容だったからに他ならない。

 だが、アヤメは神官達ほど疑ってはいない様子。


「正直、半信半疑ってところさね。グラーフ族族長の娘公認の旅なんだろう。それにドラゴンを単騎で倒す強者の存在。あたいの索敵に全く引っ掛からない手並み。事の真偽は置いといて只事じゃないって事くらい、あたいにだって分かるよ」


 アヤメはひらひらと手を振りながらあっけらかんと答えた。

 青年にとっては分かり切った事を聞かれたという感じなのだろう。


「それじゃ、あたいの目的も話しておこうか。実はこっちもレイ君に用があるんだ」


 アヤメは居住まいを正した。

 次の瞬間、青年の姿が歪み、妖艶な美女が姿を現した。


「それも魔法ですか?」

「そうさね、他に何があるのさ」


 レイは好奇心から目を見開く。

 トワが姿を変えられていた事からアヤメもそうだろうとは予想していた。

 だが実際にホログラフ無しで姿を変える光景に驚きを隠せない。

 そんなレイを眺めながら、アヤメが呆れたように肩をすくめる。


「さて、まずは自己紹介。あたいはワルツブルク王国に仕える忍びの里『葉隠れ』に属するくノ一、アヤメ=スズバヤシ。あたいらの本来の目的はワルツブルクで暴れる海竜ティアマトを鎮める事。その手掛かりを探す為にドラゴンの調査をしていたんだけど……」

「それでドラゴンを倒した自分に目を付けたと」

「うん。元々脱獄を手伝って、恩を売ろうと思っていたんだけど……」


 アヤメは神妙な顔つきで頷く。

 そして……


「レイ=シュート殿。どうかワルツブルクの民の為にその力をお貸し下さい」


 ……アヤメは地べたに正座し、地面に指を付き、深々と頭を下げた。


「できる限りのお礼は致します。ティアマトを鎮めた後には、里を上げてあなた方に協力すると誓います。だから、どうか……」


 藁をも掴む思いなのだろう。

 額を地面に擦り付けて懇願する彼女の背中には、重い責任と民の命運が伸し掛かっているのだろう。


 レイは思った。

 彼女もまた不器用な人間なのだと……


「トワ?」

「うん、分かってるよ」


 レイはトワに目配せ。

 返って来たのは柔らかな笑み。


「アヤメさん。その依頼、確かに承りました」

「ありがとうございます」


 アヤメは破顔し、再び地面に頭を擦り付けた。


「アヤメお姉さん。そんな他人行儀はいいよ。これからは旅の仲間なんだから」


 トワはニカッと人懐っこい笑みでアヤメに笑いかけた。


「そういう事です。これから宜しくお願いします。アヤメ=スズバヤシさん」


 彼女の手助けをする事にはいくつかのメリットがあった。


 一つ、強力な魔法使いと思われるアヤメを味方につけられる事。

 シュターデンの遺物を扱うには強力な魔法使いの協力が必要不可欠。


 一つ、諜報機関の情報を入手できる事。

 シュターデンの遺物を探す上で情報入手手段は必須。


 一つ、ティアマトがヘッジホッグ同様、旧宇宙艦隊の兵器であれば、自身の装備強化の材料にできる事。


 レイは善意と打算が入り混じった不器用な笑いを浮かべながら、アヤメに手を差し出した。


「うん……ありがとうね。二人とも……」


 アヤメはレイの手をギュッと握り返した。

 その瞳には一粒の涙。

 純粋で責任感の強い彼女の姿にどこか後ろめたさを感じるレイだった。

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