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第三十九話 不安と誤解

 救星の旅十四日目。早朝。

 トワは首都セイレーン郊外のあばら家で朝を迎えた。


「おはよう、トワちゃん。朝ごはん出来てるよ。まずは顔を洗ってきな」


 そう語り掛けたのは普通を記号化したような青年。

 その本性は忍びの里のくノ一アヤメ。

 トワは寝惚け眼で洗面所へと向かう。

 木製の洗面器に映る少年の顔にトワは思わず苦笑い。


「この顔、慣れないね」

「文句言わない。神官共の目を眩ます為なんだから」


 二人は現在、獄中のレイを救出する為に潜伏中。

 本来は二人とも女性なのだが、アヤメの魔法によって男性に変装中。

 顔を洗ったトワがのそのそとテーブルに着く。


「おね……アヤメお兄さん。レイお兄さんは時計台って所に囚われているんだよね」

「そうさね。名目上は重要参考人の拘留所って事になっているけど、その実態は死刑囚の収容施設。あそこに入れられたってことは公国がレイ君を相当危険視してるって証拠さね」

「お兄さん……」


 トワの表情が曇る。

 アヤメはテーブルに食事を並べながら、努めて軽い口調で語った。


「そう心配しなくても大丈夫さね。公国は法治国家だから裁判も手続きも無しに死刑囚を処刑するなんてあり得ない。死刑の手続きは最低でも一ヶ月かかるからその間に潜入して、レイ君を助ければ……」

「そう……だよね」


 トワの表情は曇ったままだった。

 不安で堪らなかった。


 アヤメの言っている事に嘘は無いだろう。

 それでも今回は事情が違う。


 きっと嘘を吐くのが下手なレイの事だ。

 裁判では救星の旅の話をするだろう。

 そうなれば良くて狂人、下手すれば空の悪魔扱いされてその場で処刑なんて事もあり得る。

 目の前の美味しそうなおにぎりやお味噌汁も喉を通らない。

 我ながら重症だと心の中で苦笑しながら、トワは無理矢理おにぎりを口に運ぶ。



 そんな陰鬱な朝食時の静寂は突然破られた。

 トワの背後からドンと扉が破られる音。

 目の前には目を見開くアヤメ。


「一体なにが!うっ!」


 立ち上がったかと思えば、アヤメがいきなりその場に倒れた。

 トワは何が起きたか分からず立ち尽くした。


「トワ!助けにきたぞ!」


 不意に聴き慣れた男の声。

 その声色は切迫していた。


「お兄……さん」


 透明な空間から突如姿を現すパイロットスーツ姿のレイ。

 トワはエメラルドの瞳を涙で滲ませながら言葉を詰まらせた。


「さぁ、逃げるぞ。捕まって」


 レイがトワに手を差し伸べる。


「ちょっと待って。どうしてアタシだって分かるの?それに何もない所から……」


 トワは涙を疑問でかき消した。

 自分に心配をかけた目の前の鉄面皮男に泣き顔を見せたくはなかった。


「今はそんな事を言っている場合か」

「うんうん、ちゃんと答えて。アタシお兄さんを助けようとアヤメさんと一緒に……そしたらいきなりアヤメさんが倒れて……お兄さんが出てきて……」

「えっ?」


 レイの動きが硬直する。

 ヘルメットで分かりにくいが顔にはびっしょりと冷や汗。


「アヤメさんを殴ったの……お兄さんだよね」

「…………」


 トワは責める様な目つきでレイを睨みつける。

 レイは慌てて自分が殴り倒した青年に駆け寄り、そそくさと介抱するのであった。

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