第三十話 ドラゴンスレイヤーレイその五
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
唸る機銃。
轟く爆音。
レイは銃弾を蛇行しながら躱し、チャンスを窺っていた。
「AS03、ヘッジホッグの情報を」
(解析。敵ヘッジホッグは現在自動防衛機能の誤作動により動作しているモノと推測。メインエンジン及び飛行ユニットに損傷を確認。飛行及び高速移動が困難と推測。空中からの爆撃は無いと判断)
「ハッキングによる自動防衛機能の停止は可能か?」
(実行不可能。旧式につきアクセス不能)
「パイロットスーツのエネルギー残量は?」
(現在、五十三パーセント。防御スクリーン展開時の消耗大。長期戦は不利と判断)
「チッ!」
旧式とはいえ、ヘッジホッグは戦闘機。
いくら損傷しているとはいえ、本来歩兵であるレイに勝ち目などない。
「クソッ!弾幕が厚すぎる。これでは近づけない!」
雨あられの如き機銃にレイは攻めあぐねる。
少しずつ減っていくエネルギー残量。
そしてこの機体の最も厄介な所は……
「チッ!こっちもか!」
機体左後方へと移動したレイを機銃が襲う。
ヘッジホッグはその名の通りハリネズミ。
傍目からは翼と腹部の機銃が四門だけなのだが、実際は機体の至る所に機銃が内蔵されており、死角が一切無い。
壊れて機動力を失った戦闘機相手にここまでの苦戦を強いられているのは、この全方位射撃が原因だ。
「AS03、ヘッジホッグの弾幕が最も薄い場所は?」
(解析……機体と翼の付け根、天空方向が最も射撃が少ないと判明)
「翼の付け根の真上か……AS03、そこから攻め込んだ場合、防御スクリーンは何秒耐えられる?」
(推定〇・八秒)
「充分だ」
レイは近場の木を駆け上がり、天高く舞い上がった。
(警告、ヘッジホッグまでの到達予想時間約十秒。作戦の変更を推奨)
「問題ない」
レイはパイロットスーツから手のひらサイズの筒を二本取り出す。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
機銃がレイを襲う。
「うおぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
絶叫と共に筒の先端から光の刃。
『ビームブレイド』……高エネルギーレーザーの刃を用いた近接武器。
フォトンガンと並ぶ宇宙艦隊の主要武器であり、その威力はギラニウム装甲すら切り裂く。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「うおおおおおおおおおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
強化された身体能力と動体視力で弾丸の荒波を切り裂く二本の光刃。
弾丸の海を切り捨てる事で防御スクリーンへの負担も最小限に抑える。
(エネルギー残量二〇……一〇……五……三……弾幕突破)
ギリギリのタイミングでヘッジホッグに取り付く。
そして……
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ‼」
右のビームブレイドで翼を叩き切り、その勢いのままに左のビームブレイドが機体を横一閃…………
……真っ二つになるヘッジホッグ。
轟く爆音……
……爆風がレイを襲う。
粉塵と共にレイの身体が宙に舞う。
「クッ!」
森の中に吹き飛ばされたレイは、頭部を強かに打ち付け意識を失う。
(任務完了、敵勢力の無力化を確認。お疲れ様でしたマスター)
爆炎と煙だけが広がる街道の脇。
動かなくなったレイの脳内には、無機質な機械音声の労いの言葉だけが響いていた。




