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第二十九話 ドラゴンスレイヤーレイその四

 場面は変わって、森の奥に食べ物を探しに行ったレイ、ブライ、ミリアの三人。


「レイ様。あっちにヤマリンゴがありますわよ」

「あれは食べられるのですか?」

「えぇ、栄養満点で生でも食べられて保存も効く。サバイバルの必需品ですわ」

「……博識なのですね」


 猫撫で声のミリアがレイに言い寄る。

 レイはため息を必死に噛み殺しながら彼女の言葉を聞き流した。

 助けを求めてブライに視線を向けてみたが、遠巻きに眺めるばかり。


「レイ様。先ほどの魔法で落とす事はできませんか?」

「ヤマリンゴが消滅しますので非推奨です」


 レイは頭を抱えたい衝動を必死に堪えた。

 そんな彼の様子を見かねてか、一足飛びでヤマリンゴを採集するブライ。

 垂直飛びで二メートル……中々の身体能力だ。


「ミリア。バカをやってないで採集に集中しろ。クオン様を餓死させるつもりか?」

「もう!分かってるわよ!ホント口うるさいんだから」

「何か言ったか?」

「いいえ!何も!」


 堅苦しい口調でミリアを注意するブライ。

 ミリアは口を尖らせながら、渋々レイから離れた。

 正直作業効率が落ちていたので助かる。

 ブライと自分は気が合いそうだ。

 レイは感謝と同族意識が混じった想いでブライに頭を下げる。


 だが、やっと離れたミリアにレイがホッとしたのも束の間。


(報告。北東五百メートル地点。街道に出た所で高エネルギー反応あり。正体は不明。ウッズにて報告があったドラゴンであると推測)


 AS03の報告にレイは眉をひそめる。


(重ねて報告。推定ドラゴンの付近にヒューマノイドタイプの生命反応を確認。ルミナス人であると推測)


 レイは心の中で舌打ちした。

 彼は救星の旅を急ぐ身ではあるが、その根本は民間人を護る軍人。

 人命の危機を知らされれば動かざるを得ないのが彼のどうしようもない性質(サガ)


「ブライさん、ミリアさん。野暮用ができました。二人は先にキャンプに戻って下さい」


 レイは返事を聞かずに駆け出した。


「アッ!レイ様、お待ちになって!」

「おい、コラ!ミリア!勝手な行動は!」


 困惑しながらもレイを追うミリア。

 レイの言う事を聞かずに飛び出したミリアをブライが追いかける。


(報告。同行者ブライ、ミリアの両名がこちらを追跡している模様)

(チッ!面倒な!)


 レイにとっては最悪の展開だった。

 思わず心の中で毒づきながらそれでも前に進む。


(マスター。このままドラゴンと交戦すれば、マスターの素性を疑われる可能性あり。マスターの目的を鑑み、民間人の救出を断念する事を提案)

「うるさい!黙れ!」


 レイは怒鳴り声を上げた。

 倫理観が高い彼に危機に瀕している人命を見捨てるという選択肢は存在しない。

 この異常なまでの倫理観の高さこそ、彼を抗体者たらしめる要因(ファクター)なのだから。

 そうこうしている間にレイは森を抜け、街道にたどり着く。

 そこで見たモノは……


「アッ……アァ……」


 恐慌状態でへたり込む女性。

 その視線の先には巨大な金属の塊。


「これは……」


 レイは推定ドラゴンの異様に驚愕した。


「戦闘艇……」


 全長二十メートルほどの黒く薄汚れた流線形の機体。

 左右に真っ直ぐ伸びた翼。

 翼と腹部の下には機銃。

 機体後方にはメインエンジン。


(解析。宇宙艦隊が星歴五〇年頃に使用していた地上制圧用戦闘機『ヘッジホッグ』と一致)


 それは銀河同盟でも博物館でしかお目に掛かれない骨董品だった。


 ブルゥゥウウウウウウウウウゥゥゥゥウゥゥウウウウウウウウ!


「キャッ!」


 唸り声を上げるエンジン音。

 爆音に紛れて僅かに耳に届く絹を裂くような悲鳴。

 ヘッジホッグの機銃が女性に標準を合わせる。


「チッ!」


 レイはコンバットモードを起動。

 偽装用のホログラフが消え、無機質なパイロットスーツが姿を露わにする。

 青く輝く関節部。

 その姿は疾風。


 レイは数倍に高められた身体能力で素早く女性を抱きかかえる。

 腕の中の女性は何が起こったか分からず目を白黒させる。


 そして次の瞬間……


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッ!


 機銃一斉掃射。

 爆音と共に抉れる地面。

 先ほどまで女性が立っていた場所がハチの巣になる。


「なに!今の音!」

「クッ!なんだこれは!」


 森の中からミリアとブライが飛び出してきた。

 二人とも目の前の出来事が信じられず呆然自失といった様子。


「これが……ドラゴンか?」

「あわぁ……あわわっ…………」


 レイは部外者の登場に心の中で舌打ちを打つ。


『そこの二人、この女性を連れて逃げろ!』


 レイは一足飛びで唯一動けそうなブライに駆け寄り、ボイスチェンジャーで正体を隠しながら指示。


「あぁ……分かった」


 ブライは奇妙な恰好をした怪人(レイ)から女性を受け取りそのまま背を向けた。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!


 再び機銃掃射。

 四人全員を巻き込む形で放たれた鉄のつぶて。

 ドラゴンがもたらす圧倒的な破壊に誰もが死を覚悟した……

 …………

 ………………唯一人、レイを除いて。


(防御スクリーン展開)


 AS03の声がレイの脳内にだけ響く。

 防御スクリーン……パイロットスーツの装備の一つであり、複製機(デュプリケーター)を使って回復した機能。

 装備者の周囲に強力な力場を発生させる事によって攻撃の進路を捻じ曲げる防御手段。

 ヘッジホッグの機銃は全てあらぬ方向へと飛んでいく。


「こっ……これは……」


 困惑したブライが足を止める。


『何をしている!さっさと逃げろ‼』


 怪人(レイ)からの鋭い声。

 ブライ達は脊髄反射的にその場を走り去った。


(ブライ、ミリア、要救助者。三名の離脱を確認)


 脳内に響く機械音声にレイは安堵のため息を漏らす。


「さて、ここからが本番だな」


 キッとヘッジホッグを睨みつけるレイ。

 ここに最新鋭装備に身を固めた軍人と骨董品の戦闘機とのデスマッチが幕を上げる。

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