第二十七話 ドラゴンスレイヤーレイその二
救星の旅八日目早朝。
レイ達と神官の計五人は薄暗い森の中をゆっくりとした足取りで歩いていた。
「しかし、ジメジメして気持ち悪い森ね……クオン様、もう少し急いだ方が良いのでは?」
苛立ち混じりにそう提案したのは、神官の一人、女性見習い神官のミリアだった。
「足元の悪い森を急ぐのは得策とは言えません。逸る気持ちは理解できますが慎重に進んだ方が良いかと」
レイはあくまでも事務的に、若い彼女に苦言を呈した。
「あんたには聞いてないのよ。私はクオン様と話しているの。引っ込んでいてくれる」
あからさまに見下した態度で反発するミリア。
レイは鉄面皮を崩さない。
そしてトワは無言でミリアを睨みつける。
「ミリア。一緒に旅をする仲間にそういった態度は感心しませんね。彼の言い分にも一理ありますし、ここはゆっくり進みましょう」
「……クオン様がそう仰るのでしたら」
渋々といった風にミリアは引き下がる。
クオンは柔和な表情でホッと息を吐く。
おそらくトワの不機嫌を感じ取っていたのだろう。
「トワ様、ウチの者が申し訳ありません」
「……」
「お気になさらず。自分は気にしておりませんので」
「……お兄さんがそう言うなら」
トワは謝罪を受け入れはしたが不機嫌そうに無言を貫いた。
彼女は神官達の態度が気に入らなかったのだろう。
正直、レイから見ても神官達の態度は褒められたモノではなかった。
グラーフ族の祈祷師としてトワの事を恭しく扱う反面、レイにはどこか見下した態度。
謝罪もレイではなくトワに向いていた事が怒りに拍車をかけたのだろう。
年相応に素直で真っ直ぐな彼女らしいとレイは心の中で小さく微笑んだ。
「トワ……余計な事は考えなくてもいい」
だがそんな些細な事で腹を立てても得する事は無い。
ここで揉めて問題になっても面倒なだけ。
一応トワにも釘を刺してみたが……
「……バカ」
ポツリと罵声を一言。
ご機嫌斜めな彼女にレイは内心でため息を漏らした。
……だがそんな平和なやり取りも束の間。
「全員警戒態勢!」
レイが鋭い声を発した。
「モンスターに取り囲まれている。数三十五。鳥小型二十二、中型十二、大型一」
レイはAS03からもたらされた情報を全員に共有する。
「は?何を?」
呆気に取られる神官達。
「ボサっとしない!全員警戒!」
動きが鈍い神官達にトワが激を飛ばす。
クオンとブライは慌てて周囲を警戒するが、ミリア一人だけが未だ呆けた様子。
キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!
程なく鳥の群れがレイ達を取り囲む。
「アサルトホーク!」
腰を抜かしたミリアが悲鳴を上げる。
アサルトホークは小型で八十センチほど、中型で一メートル越え、大型になると二メートルを超える鷲のモンスター。
非常に素早くその嘴と爪は鉄をも引き裂く威力と言われている。
「トワ、行けそうか?」
「大型は無理。火事になっちゃう」
「了解、小型を頼む。中型と大型はこちらで受け持つ」
「了解」
短いやり取りと共に、二人は素早く戦闘態勢に移行する。
レイはグラーフ族の服に偽装したパイロットスーツの中から武器を取り出す。
「キャッ!」
中型アサルトホークの内の一体が無防備なミリアを襲う。
「させるか!」
レイは右手に握った無機質で未来的なデザインの手のひらサイズの拳銃『フォトンガン』の引き金を引く。
「エッ?」
フォトンガンから放たれる一条の細い光。
その細さからは想像もつかない高エネルギーがアサルトホークの身体を焼き尽くす。
そして間近にそれを目撃したミリアの目が見開く。
キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!
仲間の死に怒り狂ったアサルトホークの群れが一斉にレイ達を襲う。
「悪く思わないでね。〈ファイアボール〉‼」
魔法名の詠唱と共に、顕現するは大量の火球。
トワの周囲に数瞬浮遊したそれは立ちどころにアサルトホークへと飛来する。
ファイアボール……本来は小型の火の玉で敵を攻撃する初級魔法。
ただしイフリートの力を得たトワが使うとその数も熱量も段違い。
キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ…………
哀れなモンスター達の断末魔が森に響き渡る。
彼我の実力差も分からず無謀な弔い合戦に赴いた鷲達は火の海に呑まれた。
キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!キーッキーッ!
だが爆炎を縫って、ボスと思しき大型のアサルトホークが生き残った四体の中型を引き連れてトワを襲う。
「そこ!」
だが、彼らの嘴は仇には届かなかった。
レイの無慈悲な銃口がアサルトホークを捉える。
放たれる五本の光線。
空中で焼き尽くされ、魔石へと姿を変えるアサルトホーク達。
「うそ……」
見習い神官ミリアは呆然とした……いや、ミリアだけではない。
この場にいる神官三人ともが唖然とした。
「さぁ、行きましょう」
レイは淡々と魔石を回収しながら、ミリアに手を差し伸べる。
「ありがとうございます……レイ……様」
おずおずとレイの手を掴むミリア。
鉄面皮の彼の陰には得意満面のトワの姿があった。




