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第二十二話 トワのお手紙と予言書

 グラーフ族の集落にて。

 トワの父セツナと母カリンのもとに一通の手紙が届いた。


『拝啓。お父さん、お母さん。如何お過ごしでしょうか?

 まだアタシが里を出てそんなに経っていないので大して変わっていないと思います。

 アタシは元気です。今アタシは国境の町グランツにいます。


 まずは重大発表から……アタシ、なんとあの四大精霊の一角、炎の大精霊イフリートと契約しました。

 はい、拍手。パチパチパチ!

 どう?凄いでしょう……って、別にアタシ一人だけの力じゃないんだけどね。

 アタシを護衛してくれたレイお兄さん。

 お兄さんの力無くして、この契約は成功しなかったと思うんだ。


 アタシがイフリートの魔素に身体の自由を奪われた時、お兄さんは必死にアタシを守ってくれた。

 イフリートが飛ばす無数の火球を素手で弾き飛ばして、アタシに飛び掛かってくる火球を火の粉すら残さず吹き飛ばして……アタシもお兄さんの力になろうとイフリートの火球の制御を奪ったりもしたんだけど、かえってお兄さんの邪魔になったのかもしれない……

 イフリートがアタシに火球を向けた事に心の底から怒って、最後は捨て身の特攻をしてイフリートの心臓を貫いて……お兄さんがイフリートを弱らせてくれたおかげで、アタシはなんとか契約できた。


 ここでもう一つ重大発表!

 アタシ、色々と訳あって、これから百日ほどレイお兄さんと旅をする事に決めました。

 学校の方には休学申請出してるけど、もしかしたらそのまま退学かも……そうなったらごめんね。

 せっかく通わせてもらったのに、お母さん達の期待に応えられなくて。

 でも、後悔はしていないから。

 今はあの生真面目で不器用で常識知らずで、でもとても優しいお兄さんの力になりたい。


 それがアタシの偽らざる想いです。


 これからアタシは公国の首都セイレーンに向かいます。

 どうかお体に気を付けて。


 最愛のお父さんとお母さんへ

 ティオ=グラーフのご加護が二人の下にありますように

 不詳の娘 トワ=グラーフより』


 娘の手紙を読み終えた両親はその表情を曇らせた。


「……あの子ってば」

「やっぱりこうなったな」

「……そうね」


 セツナとカリンは娘からの手紙と一冊の古びた本を見比べ、ため息を吐いていた。


「できれば……起こって欲しくなかった」

「だが……起こってしまった」


 古びた本のタイトルは『ティオ=グラーフの予言』

 グラーフ族の始祖ティオ=グラーフの言葉を彼女の子孫が編纂し、後世に伝えたモノとされている。

 予言の的中率は今のところ……百パーセントだ。


『異界より来たりし青年。救星の種に導かれ、エメラルドの瞳のグラーフの娘は旅立つ……空の悪魔からルミナスを護る力を求めて……我が最愛の人、シュターデンの足跡を追う旅路へ』


 グラーフ族には一族だけが知る秘密があった。

 彼らの始祖ティオ=グラーフには夫がいた。

 彼の名前は……大魔法使いシュターデン。


「これが……運命ってやつか」


 予言書のこの先は空白。

 結末は記されていなかった。

 娘がどうなるか?

 それは神のみぞ知るところ。


「どうか……あの子達のもとにティオ=グラーフの加護がありますように」


 母は祈るように手紙を抱きしめた。

 ただただ娘達の無事と再会を願って……

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