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第二百三十七話 拷問狂の最後

「キャハハハハハハァ!せいぜいいい声で泣けぇ!頭お花畑のお姫様!」


 ティアラの頭上に振り上げられた銀色に乱反射する拷問狂の右腕は……


 …………

 ………………

 ……………………


 ……振り下ろされなかった。


「なっ!」


 ボトッと重い音と共に落ちる右腕。

 目を見開く拷問狂の視線の先には……


「すまない、ティアラ。遅くなった」


 黒のボサボサ頭に漆黒の鋭い眼光。

 白いパイロットスーツ姿で、右手にビームブレイドを携えたレイがいた。

 


「レイ……遅いよ」

「悪かった。足を引っ張る者(フールレディオ)の対策に時間が掛かった」


 心臓が早鐘を打つ。

 酸素を失った肺が痛い。

 呼吸が加速するのは、全速力で駆けつけてきたからだけではない。


 レイは怖かった。

 ティアラが自分の知らない所で傷つくのが……


 ボロボロのティアラに駆け寄り、そっと首元に添えた手はフルフルと震えていた。


「すまない。自分が遅くなったばかりに……」


 自分が無力なせいで、ティアラが傷ついた。

 レイは忸怩たる想いで、手形がくっきりついたティアラの白い首を撫でた。


「ううん、いいの。信じてたから。今回()ちゃんと助けてくれるって」


 ティアラが心底(いと)おしげに、レイの手を優しく包み込んだ。

 初めての実戦で、しかも相手は空の悪魔。

 さぞや怖い思いをしたのだろう。

 そう思うとレイの胸は、締め付けられるほど苦しくなった。


「チッ!人前でイチャイチャしてんじゃねぇよ!この腐れチ〇ポ野郎!」


 両腕を失った拷問狂が怒りと憎しみで吠える。


「死ねぇえええええ!シュターデェエエエエエエエン!」


 レイの後頭部目掛けて、拷問狂が右足を蹴り下ろす。

 避ければ、ティアラの頭がザクロのように吹き飛ぶ軌道だ。


「オーバーリミットモード」


 レイの身体が眩い光を放つ。

 魔素とパイロットスーツの力で活性化される細胞。

 身体能力を数百倍に強化されたレイが、振り向きざまにビームブレイドを一閃。


「ぐぁあああああああああああああああ!痛い!痛いよぉおおおおおおおおおおおお!」


 煌めく蒼き光刃。

 少女の白い脚が二本、薄暗い月明かりの空に舞う。

 文字通りダルマになった拷問狂が苦痛で絶叫し、のたうち回る。


「痛いか?安心しろ、直ぐに終わる」


 レイは、もだえ苦しむ拷問狂に一片の慈悲も与えず、水色の艶やかな髪を乱暴に掴み上げる。


「やっ!やめろ!私を殺したら……街は木端微塵に……」

「残念だがそれは無い。ここに来る前に足を引っ張る者(フールレディオ)の制御を奪ったからな」

「なっ!」


 往生際悪く命乞いをする拷問狂に、レイが液体窒素のように冷たい声色で応じた。

 レイは感情の籠らない視線をファラリスに投げながら、ここに来るまでの経緯を思い返した。



 あれは十分ほど前だろうか。

 レイは取得した足を引っ張る者(フールレディオ)のデータを基に、アスにコンピュータウィルスを作成させた。

 それから上空に飛行する足を引っ張る者(フールレディオ)に、最大強化された脚力で飛びつく事で物理的に接触し、直接コンピュータウィルスを打ち込む事で無力化した。


 アスの高度な演算能力と、レイの超人的な身体能力及びステルス性能が無ければ実行は不可能だったろう。

 足を引っ張る者(フールレディオ)がコンピュータウィルスに犯されている事は、おそらく八意も気づいていないだろう。

 もし気付かれていたなら、八意自身が起爆スイッチを押している可能性が高い。



 閑話休題。

 レイは両手両足を失った裸の美少女の頭を引っ掴み、空高く掲げた。

 真正の悪党も真っ青の最低最悪な悪役ムーブだ。


「これからお前に足を引っ張る者(フールレディオ)の記憶消去電波を最大出力で照射する」

「エッ?それって……」


 レイの呟きに拷問狂の声が絶望に染まる。

 言葉が意味するところを察して……


「お前の存在はここで消える」


 レイは覚悟した。

 拷問狂をこの世から消し去ると……


「嫌だ……嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!」


 泣き叫ぶ少女の声も、レイには届かなかった。

 レイはティアラと拷問狂のやり取りを見ていた。

 この八意(あくま)が生み出した悲しきバケモノは消さなくてはならない。


 例え、それで自分の知る未来が変わろうとも。


「拷問狂ファラリス……次に生まれる時は、もっと幸せな人生を」

「うるさい!黙れ!この偽善者がぁあああああ!私は絶対にお前を許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さ……」

「記憶消去電波……照射」


 拷問狂の怨嗟の声を耳に、レイは足を引っ張る者(フールレディオ)に命令(オーダー)を下した。


「ゆるさ……ない」


 数秒後……拷問狂は最後の恨み節を残し、事切れた。

 レイは空っぽになった少女の身体を地面に寝かせ、憎しみで見開いた琥珀色の瞳をそっと閉じた。


「レイ……」


 心配そうなティアラの声が、(うずくま)るレイの背中を叩いた。

 レイは彼女の方を振り向く事無く、すっと立ち上がった。

 自分にはまだやるべき事がある。


「ティアラ……この世界に神はいると思うか?」

「…………」


 レイの突然の問いにティアラは沈黙した。

 彼女がどんな顔をしているかは分からないが、きっと困惑しているだろう。


「これから自分がする事は、ある意味神に対する冒涜かもしれない」


 レイが向かった先には……少女の左腕があった。

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