第二百三十三話 親子のような……
「ティオさん。なんか悪りぃな……ご馳走になっちまってよ」
雲間から月明かりが薄く差し込む人気のない大通り。
十万人以上の人口を誇る大都市にしては、酷く閑散とした寂しい風景の中、腹も気持ちも満たされたにんまりとした表情で、ジョニーがお礼を口にした。
「気にしないで。助けてもらったお礼だから」
ティアラもジョニーに柔らかい笑顔を返す。
正直、彼がいてくれなければ、魔法を使ってゴロツキ共を追い払わなくてはならなかった。
空の悪魔に監視されているこの状況。
派手な魔法の使用はできるだけ避けたかったので、とても感謝している。
「でもおじちゃん。ステーキ五人前は食べ過ぎだと思うよ」
「お・に・い・さん、だ!豆チビ!」
「あぁ!おじちゃん、またチビって言った!私ファラリスだもん!」
「そりゃ悪うございましたね。チビファラリス」
まぁ、喧嘩するほど仲がいいと言えばいいのだろうか?
ファラリスは、発育が悪いとはいえ十五歳くらいだと思うが……
正直、あぁやって肩車をするのはどうかと思う。
「もう……子供扱いしないでよぉ」
「ははぁ。悔しかったらいっぱい食べて、さっさとデカくなれってんだ……って痛て、おまっ、意外と力強いなぁ」
文句を言いながらテンガロンハットを叩くファラリスはなんとも楽しそう。
痛がるジョニーはさておき、ファラリスも満更でもなさそうだし、細かい事はいいか。
などと、ティアラが思っていると……
「ところでティオさん?あんた、この娘とはどこで?」
ジョニーが肩の上のファラリスを地面に降ろしながら問いかけた。
「えっと……それは……」
ティアラは言葉を濁した。
ファラリスとの出会いを語るにあたって、どうしてもレイの話は避けられない。
適当に嘘を吐いて誤魔化そうにも、今は……
「お姉ちゃんね。私を酷い男から助けてくれたの」
「酷い男……?」
「うん!お姉ちゃんはクオンって言ってた」
「クオンだって!」
ティアラが黙っていると、案の定ファラリスが正直に密告した。
クオンという名前を聞いた途端、ジョニーは血相を変えて自分とファラリスを見比べる。
「ティオさん……あんた?もしかしてあのクオンの連れか?」
ティアラは特大級の頭痛に襲われた。
ティアラとレイはアスを通じて密に情報共有している。
当然、ジョニーが所属するノイマン会にレイが正体を明かした事もだ。
つまり……ジョニーは酷い男=英雄シュターデンだと知っている。
「場所を変えましょう。こんなところでする話じゃないわ」
「……だな」
ティアラとジョニーは周囲を見回す。
大通りの人通りは相変わらず閑散としているが、それでもゼロではない。
しかも路地裏にはガラの悪そうな連中が潜んでいて、こちらを虎視眈々と狙っている。
ジョニーがいなければ、今頃ゴロツキ共に取り囲まれていたことだろう。
(レイに教えてもらった索敵用の風魔法〈コレクトサウンド〉……便利だけど、ちょっとうるさいかな)
〈コレクトサウンド〉……周囲の音を収集する初級風魔法。
今のティアラは所謂地獄耳状態。
百メートル先の小銭が落ちる音くらいなら聞き分けられるが、如何せん情報量が多い。
魔法使用の疲労と周囲の雑音に軽い眩暈を覚えているティアラに、ジョニーが心配そうな表情を覗き込みながら問いかける。
「ファラリスには?」
「ダメ、聞かせられないわ」
「訳アリってわけか。分かった。俺の隠れ家に案内しよう」
ジョニーはファラリスを抱っこしながら、ティアラを先導する。
「……レイやウィリアムに知られたら怒られそうね」
ティアラはポツリと呟いた。
婚約者のいる未婚の女子が知らない男の部屋にのこのこついて行く……はしたないにも程がある。
(スオロ、フェネクス、エアリアル。頼んだわよ)
ティアラは自らの契約精霊達に頭の中でお願いした。
どうか自分と精霊の力が、本物の親子のように笑う幸せな二人を守れますように……




