第二百二十九話 お姫様は妹をご所望
「まずはお洋服からね!」
「ナニ?お姉さん……怖い……」
レイが野良仕事に勤しむ頃と時を同じく、ティアラが宿泊する宿屋にて。
ティアラは鼻息を荒げ、涎を垂らし、腕まくりをしつつ、指をワキワキさせながら、怯える水色髪の美少女ににじり寄っていた。
「ファラリスちゃん。昨日は時間が無かったから適当なモノしか用意できなかったけど、今日はちゃんと洋服屋さんに行って、カワイイお洋服を揃えないと」
「お外嫌……私……このままでいい」
「大丈夫~、怖くないわよぉ~。お姉さんと一緒だから~……じゅるり」
「うぅ……怖い」
ティアラは少しばかり?興奮していた。
自分は王族の生まれで一人っ子。
こちらに取り入ろうとする貴族令嬢の自称友人はいたが、親しい友人は皆無だった。
それ故、お友達や妹という存在に憧れを抱いていた。
今のティアラは、目の前の可愛らしい美少女とキャッキャウフフする事しか頭に無かった。
思えばレイを好きになったのは、助けてくれた恩もあるけど、それ以上にこちらを王族ではなく、一人の人間として扱ってくれた事が嬉しかったからかもしれない。
最初、ぶっきらぼうに扱われた時は、「なんだ、この男は?」と不貞腐れたモノだが、もしかしたらこの男性は自分のお友達になってくれるのでは……と期待しなかったと言えば嘘になる。
尤も、それ以上の感情を抱いてしまったのは予想外だったが……
「どうしたの?お腹でも痛いの?」
ファラリスの琥珀色の瞳がティアラを心配そうに覗き込む。
「ううん……何でもない」
ティアラは首を振り、笑顔でファラリスに応えた。
どうやら自分は相当しけた顔をしていたようだ。
レイが側におらず、この可愛らしい少女が空の悪魔の手先かもしれない状況。
ティアラ自身、自分の心労を自覚していた。
「ファラリスちゃんが一緒にお買い物してくれたら元気になるかな~」
「うぅ……分かった……怖いけど、頑張る」
「うん、ありがとう。ファラリスちゃんはとってもいい子ね」
ティアラは少し屈み込み、アメジストの紫瞳を細めながら、ファラリスの頭を優しく撫でた。
「うぅ~、お姉ちゃんの手、柔らかくてすべすべ……おじちゃんのゴツゴツのおっきな手と全然違う」
ファラリスが嬉しそうに目を細める。
きっと彼女にも大好きなおじさんがいて、その人と自分を重ねているのだろう。
やはり彼女がレイの言うような残忍な人間とは思えない。
「じゃあ、手を繋いでお出かけしましょう。そうすれば怖くないでしょう?」
「……うん!」
ティアラが右手を差し出すと、満面の笑みのファラリスがガシッと力強く握り返した。
宿屋から一歩外に踏み出せば、雲の切れ目から一筋の陽の光。
曇り空の中の僅かな晴れ間は希望の光なのか?
それとも嵐の前の静けさなのか?
今のティアラにはまだ分からないけど……
「まずはお洋服、それが終わったら美味しいモノ食べましょうね」
「うん!」
思ったよりも強い手の力と、儚げな笑顔を守りたいと思った。




