第十八話 国境の町グランツ
「さて、着いたは良いモノの、どうすれば会えるのだろうか?」
「アタシだって分からないよ。大公様に会う方法なんて……」
何処かエキゾチックな雰囲気と異国情緒漂う街並み。
レイとトワが救星の旅を始めて三日目。
モンスターが徘徊するグラーフ草原を抜けて二人がやって来たのは神聖リシュタニア公国の南西に位置する国境の町グランツ。
二人がこの国に来た目的は、この国を治める大公トライス=デ=テューレ=リシュタニア三世との謁見。
それにはいくつかの理由があった。
遡る事二日前……救星の旅を始めた直後。
事の発端はイフリートの一言から。
『救星にあたり、観測者からお主らに伝言がある』
神妙な顔つきで語り出したイフリート。
彼が言った内容は以下の通りだ。
一つ、観測者の推測によると空の悪魔がルミナスに辿り着くのはおよそ百日後。
一つ、空の悪魔に対抗する為にはシュターデンの遺物が必須である事。
一つ、シュターデンの遺物を扱うには強力な魔法使いの協力が必要だという事。
「イフリート、シュターデンの遺物とは?所在は?」
『どちらも分からぬ。なにぶん一万年前の出来事ゆえ……我がこの姿と自我を持ったのは五千年ほど前の話だからな』
「そうか……」
レイは腕を組み眉間にしわを寄せた。
たった百日足らずでどこにあるかも分からない一万年前の遺物を見つけ出し、それを使用する為に強い魔法使いを仲間に引き入れる。
しかもこの期限は短くなることはあっても長くなる事は無い。
事の困難さにため息が漏れる。
「ねぇ、これってもう個人ができる範疇を超えてるよね。いっそ国に助けを求めたら?」
ポツリと言葉を零すトワ。
「それだ!」
レイはらしくない大声を上げ、トワの身体を高い高いの要領で持ち上げる。
目から鱗が落ちるとはまさにこの事。
この事態に責任を感じ、一人で何とかしようとしていたレイには到底思いつかない案だった。
「ちょっと!お兄さん!恥ずかしいからやめてよ‼」
いきなり物理的にも精神的にも持ち上げられたトワが戸惑う。
その顔は茹でダコの様に真っ赤。
「あぁ、すまない」
「……別にいいけど」
レイは申し訳ない気持ちでトワを地面に降ろした。
名残惜しそうなトワの視線がレイの手に注がれる。
『……仲良きことは美しきかな』
そして遠い目をしたイフリートは静かにその場を退場するのであった。
時は戻り現在。
「ひとまず今日はここで一泊だな。色々とやる事もあるしな」
「ウチの親と学校宛に手紙を書いて、ハンターギルドに登録して、途中で狩ったこれを換金して買い出し……ホントやる事多いよね」
トワは右手に革袋を掲げながらため息を吐く。
袋の中には『魔石』と呼ばれる結晶。
魔石とはモンスターから採れる結晶体の事で、この世界で普及している魔道具と呼ばれる便利道具の燃料。
AS03の解析によるとモンスターが体内に取り込んだナノマシンの結晶体で、魔素と似たような働きをするらしい。
つまり魔道具=魔法使い、魔石=魔素の様な役割になるのだ。
トワの家にあった勝手に動く機織りや火を付けずに煮える鍋が魔道具にあたる。
二人が魔石を持っているのはここに来る途中でモンスターを狩ったからだ。
モンスターは死ぬと魔石を残して死体は消滅する為、素材の換金などは行われていない。
AS03の推測だと、魔素を取り込み過ぎた野生生物がナノマシンの集合体なったのがモンスターで、全身が魔素で出来ている為、魔石以外は残らないとの事。
「さて、まずは宿。次にハンターギルドだな」
「そうだね。急がないと日が暮れちゃう」
トワがスキップしながら、レイの一歩前を歩く。
彼女の楽しそうな姿にレイは口元を緩ませる。
空の悪魔襲来まで百日足らず。
やる事は山積みだし、平坦な道でもない。
だが今のレイにはそれに立ち向かうだけの理由が確かに存在した。




