プロローグその二 草原の祈祷師見習い少女
「アッ!流れ星?」
少女はエメラルドの瞳を丸くしながら空を見上げていた。
「トワ、なにボーッとしてるの?」
「お母さん……流れ星が……」
トワはもう一度空を見上げるが、流れ星はもう消えていた。
「こんな朝っぱらに?それよりあんた。精霊への挨拶は済んだの?」
「アッ!まだだった」
「もう!しっかりしなさいよ。あんたも今年で十二。もう祈祷師になれる歳なんだから」
「分かってるって。でも契約休暇はまだたっぷりあるんだし、ゆっくりでいいじゃん」
「もう!そんな事言って!あんたはただ学校に行きたくないだけでしょう」
「テヘッ、やっぱりバレた。だって都会のお嬢様のノリって馴染めないんだもん」
母の小言を聞き流しながら不貞腐れるトワ。
彼女は骨の髄まで遊牧民。
都会の学校でお上品な紳士淑女と魔法のお勉強ゴッコなんて性に合わない。
「まぁ、それは分かるんだけど……でもしっかり学ばないと大魔法使いシュターデンみたいな立派な魔法使いになれないよ」
「あぁ~!分かってるって!もう耳にタコだよ!」
トワは母に学校の通知表を押し付けながら、頬を膨らませる。
「魔法関係に関してだけは最高評価……あんた、ホントに魔法の勉強だけは熱心ね。まぁそれはともあれ、たまにはお友達でも連れてきなさいな」
「えぇ~!ヤダよ。第一都会のもやしっ子がこんな遠くまで来るわけないじゃん」
トワは軽口を叩き、プイっと母から顔を背けた。
普段は笑顔が可愛らしい彼女だが、今はふくれ面。
整った目鼻立ちと好奇心旺盛なエメラルドの瞳。
健康的な褐色の肌は瑞々しく、紫のツインテールが揺れる様は活発な彼女を表しているかの様だ。
トワは母親の小言から逃げる様に、草原を先ほどの流れ星が落ちた方へと駆け出した。
アンデスのウアイノに似たカラフルな民族衣装の裾を揺らしながら、走る事しばし……
「なんだろ?あれ?」
トワは見慣れた草原で変わったモノを発見した。
モンスターが行き交う草原のど真ん中に寝そべる人の姿。
大きさから男の人だという事は分かる。
だがその恰好はあまりに異様だった。
全身を覆う無機質で光沢のある真っ白な服。
顔全体を覆う仮面は如何にも堅そう。
あんなおかしな服を着た人間は都会でも見た事がない。
「ピクリとも動かないね……怪我でもしてるのかな?それともお昼寝?」
トワは人影に駆け寄った。
彼女は善良で……そして好奇心旺盛だった。