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第百九十五話 天敵

 深夜、グリセリア王城。

 ミシディア砦の住人を誘拐した空の悪魔を無事倒したレイ。

 彼はホログラフで自身を透明化し、コソコソと泥棒のように自室に侵入した。


(ふぅ……アス。ティアラの様子はどうだ?)

(今は自室で眠っておられます)


 レイは頭の中だけでアスに問いかけながら、一先ずホッとした。

 賓客が来ている大事な日に無断早退したのだ。

 きっと怒り心頭だろう。


(マスターレイ。何故、ティアラ様に事情を説明しないのですか?どうせ後から分かる事なのに)

(…………)


 アスの心底呆れた声に、レイは返す言葉が見つからなかった。


(最近のマスターレイの行動は不合理な事が多すぎます。思考の開示を要求)


 レイは少し考え込んだ。

 そして……


(分からない)


 レイは自分の今までの行動を思い返し、自分で首を傾げた。

 タイムスリップをして以来、自分らしくない行動が目立つ。

 特に顕著にその傾向が見らえたのは、今回の件とウィリアムとの決闘の件だ。


 どちらもあらかじめティアラに相談していれば、それほど大事にはならなかっただろう。

 だが、相談しなかった。

 何故だろう?

 それは……


「ティアラに負担を掛けたくなかった」


 レイはポツリと呟いた。

 ウィリアムの件は、ティアラが王都復興で忙殺されている時の出来事だったから?

 今回の件は、リーングレイス公爵との会談があったから?

 どうもしっくりこない。

 それに言わない方が迷惑を掛けて却って彼女に負担を掛けてしまう。


「ティアラに嫌われたくなかったから……」


 レイは自分の思考が子供(ガキ)っぽ過ぎて、思わず苦笑した。

 ウィリアムとの件は、彼女の婚約者と喧嘩した事を隠したかったから。

 今回の件は、一刻を争う状況で彼女と顔を合わせて止められるのが嫌だったから。

 彼女に止められれば、少なからず時間をロスしてしまうし、制止を振り切った事で嫌われる可能性だってある。


 レイは自分の内面に向き合いながら、心底不思議に思った。

 自分の判断基準の全てにティアラがいた。


「シュターデンさん?お帰りですか?」


 レイの思考は扉のノック音に打ち切られた。

 遠慮がちなセリカが、心配そうにこちらを呼びかける。


「はい」


 レイはスッと扉を開いた。

 そこには暗い表情で顔を伏せたセリカの姿があった。


「あの……どうしていきなり早退なんて……あの後色々と大変だったんですよ」


 怒られると思ったがどうも違うようだ。

 どちらかと言えば、心配しているような声色だ。


「すみません。大工の棟梁に助っ人を頼まれていたのを忘れていて」


 レイは鉄面皮のまま、その場で思いついた適当な嘘を吐いた。

 内心嘘がバレないか焦ったが、本当の事を言っても信用されないだろうし、余計話がややこしくなる。


「あの後、連絡官からリーングレイス領が空の悪魔に襲われたって報告があって……わたくし、リーングレイスの出身だから、それで……」


 セリカは赤みがかった黒の瞳を潤ませ、涙声でレイの胸に抱き着く。


「わたくし、領都に残した家族が心配で……」


 レイは震えるセリカの肩に手を置き、密着する身体を離し、彼女の目を見ながらゆっくりと語り掛ける。


「セリカさん、大丈夫です。領都は無事ですから」


 レイは確信を込めて、彼女を強く励ました。

 だがその瞬間……


「シュターデンさん?どうしてその事を知っておいでですか?」


 セリカの口元が三日月に歪んだ。


「それは……いえ、知りませんけど……ウィリアム様も守っておいでですし……きっと無事かなぁ……と」


 レイはしどろもどろになりながら、苦し紛れの言い訳をする。


「シュターデンさん。嘘はお止め下さい。あなたは領都の無事を知っていた。何故です?」


 セリカの唇がレイの耳に近づき、艶めかしい声で囁く。

 ふぅ~っとかかる生暖かい息がこそばゆい。

 鼻を掠めた緑がかったショートヘアが、甘い匂いを放つ。


「いやですね……ここからリーングレイス領都まで千キロ以上あります。自分がどうやって領都まで行くって言うんですか?」


 レイは脳みそが痺れそうな感覚に抗いながら、思考をフル回転させた。

 自分自身会心の言い訳ができたと思った。

 だが……


「シュターデンさん。わたくし、どうやって知ったのかを聞いたのですが、何故行った事を前提にお話ししていらっしゃるのですか?」


 セリカがレイの頭を抱きしめ、胸にレイの顔を押し付ける。

 甘い香りと柔らかい感触の中、レイの頭の中は完全に真っ白になった。


 完全に墓穴を掘っていた。

 自分が空の悪魔と戦った事がバレている。


「さぁ、全部話して下さい。話してくれたら、もっと()()()してあげますよ」


 セリカが甘く蠱惑的に囁く。

 これがハニートラップというヤツか?

 このままではティアラに迷惑が……


「放して下さい!」


 レイはセリカの肩を乱暴に掴み、柔らかな感触を引き剥がした。


「何が目的かは知りませんが、自分は何も知りません!」


 レイは心底焦っていた。

 危なかった。

 こんな現場を誰かに見られたら、社会的に死んでしまう。

 それにもしティアラの耳にでも入ったら……


 ……まさか……レイの頭に悪い予感が過る。


「あら?随分と強情なんですね」


 セリカが舌なめずりしながら胸元のボタンに手を掛ける。


「……セリカさん……まさか」


 レイの背中から大量の脂汗が流れる。

 目の前には上から二つボタンを外し、服をはだけ、瞳を潤ませた侍女。


「シュターデンさん。問題です。ここでわたくしが大声を上げたらどうなるでしょう?助けて~、シュターデンさんが無理矢理~って」


 レイは息を呑んだ。

 目の前の煽情的な美女に対してではない。

 自分を犯罪者に仕立てようとする悪女に対してだ。


「何がお望みですか?」


 レイは脅迫に屈した。

 屈服したレイの諦めた表情に満足したのか。

 セリカはケロッとした顔で着衣の乱れを直す。


「これから会って欲しい方がいます」

「誰ですか?」


 飄々としたセリカにレイはじっとりとした目で問い詰めた。


「リーングレイス公爵閣下です」


 レイは目の前の悪女と迂闊な自分に対して、心の中で盛大に毒づいた。

 彼女はリーングレイス領の出身……これは最初から仕組まれていた事だったのだ。

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