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第十五話 レイ=シュートの決意

 嶺は傍らで眠るトワをぼんやりと眺めていた。

 安らかな寝顔。

 自分はこの少女を危険にさらした。

 そしてこの少女に命を救われた。

 感謝と自責の念が胸の中でせめぎ合う。


「自分は……どうすればいいのだろうか」


 観測者に見せられた光景。

 宇宙艦隊の……アークライト隊が外宇宙に向けて進軍する姿。

 ゲイリー=アークライトが率いる艦隊が相手ではいくら観測者でも突破は時間の問題だろう。

 もし旗艦グングニルが外宇宙に抜けてしまえば……

 今のルミナスにはどうする事もできない。


「自分は……どうすればいい」


 嶺は再度呟いた。

 苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。


 ゲイリー=アークライトは正義の人だ。

 銀河同盟には未開惑星不可侵条約もある。

 暗黒の歴史(ブラックレコード)の頃の宇宙艦隊と今の宇宙艦隊は別物。

 おそらく無体な真似はしないだろう。

 ここがただの未開惑星であれば……


「自分は……どうすればいいんだ」

「好きにすればいいんじゃない?」


 三度目の呟きに答える声。

 傍らで眠っていたトワが寝そべったまま言葉を紡いだ。


「お兄さんが何を悩んでいるかは知らないけど、そういう時は自分が何をしたいか?を考えるんだよ」


 疲労が見える声。

 それでも努めて明るく振る舞う声。

 その気遣いに嶺の胸がざわつく。


「トワ……もうすぐ……空の悪魔が来るとしたらどうする?」


 トワは目を丸くした。

 嶺は口に出して後悔した。

 こんな荒唐無稽の話をクソ真面目にされても困惑するだけだろう……そう思っていた。


「そうだねぇ……アタシのイフリートで戦う」


 トワは嶺の馬鹿げた問いにうんうんと唸りながら真剣に考えてくれた。

 そして嶺を安心させる様にニィっと口を三日月にして笑った。


「そうか」


 嶺はトワに釣られて笑った。

 それは笑ったと言っていいか分からないような微笑だった。

 嶺はトワが自分の言葉を真剣に受け止めてくれた事が嬉しくて、不器用に笑った。

 するとトワは拗ねた様に口を尖らせた。


「あれ?驚かないの?アタシイフリートと契約したんだよ」


 自慢げに自分の戦果を主張するトワ。そこには年相応の子供っぽさが窺えた。


「そうだったな。トワ」

「ふふ~ん……偉大なるグラーフ族の戦士にかかればこのくらい……」

「ありがとう……助けてくれて」

「……どう致しまして」


 ゴロンと寝返りを打ち、嶺に背を向けるトワ。

 その顔は紅潮し、耳まで真っ赤だった。


「そうだな。やるだけやってみるか」


 嶺は笑った。

 今度ははっきりと表情に出して笑った。


(トワ……今度こそ君を守る。宇宙艦隊の……いや、君に命をもらったレイ=シュートとして……)


 この時を持って彼は宇宙艦隊周藤嶺大尉を捨て、レイ=シュートとなった。

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