第十三話 暗黒の歴史(ブラックレコード)
星歴元年、銀河同盟発足。
地球人を始めとする知的生命体が、お互いの繁栄の為に手を取り合う理想国家の樹立。
長きに渡り惑星間で行われてきた不毛な戦いの歴史が終焉を迎えた日だった。
星歴十三年、平和な時代の到来により惑星間の交流が増えたが、それと同時に宇宙海賊も増加した。
事態を重く見た銀河同盟政府はこれに対抗する為に宇宙艦隊を発足。
当初は戦争が無くなった事で職を失った軍人の再雇用先としても機能していたが、次第にその勢力は膨張していった。
星歴五五年、ほぼ銀河系全土の治安を掌握した宇宙艦隊は国営のギャングやマフィアの様な存在に成り下がっていた。
商船から護衛料と称し金銭や食料を要求、要求が受け入れられない場合の略奪、乗組員の口封じ等々……
宇宙艦隊は銀河系最強最悪の暴力機構として、傍若無人の限りを尽くした。
これが世にいう、暗黒の歴史である。
翌星歴五六年、事態を重く見た銀河同盟政府はとある計画を実行に移した。
『宇宙艦隊白痴化計画』……
計画立案はAI・ナノマシン工学の第一人者であり、上級科学士官でもあったヤゴコロ少将。
計画の全容は以下の通り。
軍人全てに予防接種と称し、脳を支配する特殊なナノマシン『アラヤシキ』を投与。
宇宙艦隊の知性と自由意志を奪い、倫理観と遵法精神を備えたAI『オモイカネ』によって支配するというモノ。
計画は見事に成功。
悪逆非道の限りを尽くしていた宇宙艦隊は、銀河同盟の従順な道具と成り果て、ここに銀河系の真の平和が樹立された。
それから時は流れ、星歴一〇二五年。
突如白痴化計画で使われた『アラヤシキ』が効かない軍人が現れた。
彼らは抗体者と呼ばれ、当初銀河同盟政府は彼らを危険視したが、その後騒動は何事も無く鎮静化した。
理由は彼らが漏れなく一定以上のモラルを持ち合わせており、特に問題行動を起こさなかったからだ。
翌星歴一〇二六年。
銀河同盟政府は抗体者研究の為に研究機関を発足。
そこで確認された研究成果は興味深いモノだった。
まず抗体者になる条件だが、一定以上のモラルを持ち合わせている事が挙げられた。
これは『アラヤシキ』が『オモイカネ』によって管理されており、モラルを持っている者をわざわざ能力低下させてまで支配下に置く必要は無いと判断していた為である。
次に言及されたのが抗体者の能力について。
通常の白痴軍人に比べて知能と判断力が高いだけに留まらず、AIやナノマシンを使った武器及び兵器との相性も非常に優れている事が判明した。
自由意志を持ったまま体内にナノマシンを保有している事がその理由である。
最後に彼らは非常に忍耐強くなる反面、感情表現が乏しくなる傾向が見られた。
これに関しては原因不明である。
それから数百年の時を経て、研究機関は抗体者を生み出すノウハウを確立。
宇宙艦隊の軍人は全て抗体者に入れ替わっていった。
時は更に進み、星歴二〇〇〇年。
銀河同盟政府は増えすぎた人類の移住先を求めて、外宇宙探索部隊を発足。
翌星歴二〇〇一年。
外宇宙への航路を発見した宇宙艦隊だったが未知の生命体バグと遭遇。
対バグ用の人員確保と口減らしを兼ねて、数百年間禁忌とされてきた犯罪者を利用した白痴兵の製造に着手。
そして星歴二〇二五年現在。
宇宙艦隊第二十三外宇宙探索部隊戦闘艇パイロット……
抗体者周藤嶺大尉は外宇宙の惑星ルミナスの地に立っていた。