表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/117

第十一話 祈祷師トワと観測者

『小僧。お主はよくやった』


 炎の魔人に全身を焼かれ地に臥す嶺。

 イフリートの口から零れたのは称賛。


『まさか我の心臓に風穴を開けるとはな』


 イフリートは目を細め、口元を綻ばせ、胸元に手をやる。

 みるみる塞がっていく傷口。


 精霊は魔素の群体。

 そもそも通常の生物とは違い、臓器などというモノは存在しない。

 つまり心臓を貫こうと、頭を砕こうと、魔素の数が一時的に減るだけなのだ。


『さて、そろそろ終いにするか』


 そして精霊は無慈悲だった。

 イフリートは嶺に戦士として敬意を持った。

 だが同時に敵対者として畏怖した。

 精霊は敵対者に容赦しない。

 イフリートの巨大な腕が嶺の首へと伸びる。


「待ち……なさい……あんたの相手は……アタシだよ」


 不意にイフリートの背後から弱々しい少女の声。


『風と草の民の娘。見事なり』


 イフリートは心底感服した。

 トワと……嶺に対して。


「グラーフ族の族長が娘にして、偉大なるグラーフの祈祷師トワ=グラーフが願う……」


 祈祷師の祝詞(のりと)……精霊と契約を行う祈祷師が精霊を縛る言葉。

 フラフラと立つのもやっとの状態。

 焦点の定まらない瞳。

 だが声だけは……意思だけは毅然としていた。


『我もだいぶ弱らされていたようだな……面白い。我の拳とお主の祝詞。どちらが早いか競争だ‼』



 イフリートは嶺の胸倉を掴み、拳を振り下ろ…………せなかった。



(う……腕が動かない)

「…………」


 祈祷師の娘の力ではない。

 娘は次の祝詞を紡ごうとしているが、濃すぎる魔素のせいで息も絶え絶え。

 とてもイフリートを拘束するだけの力は残っていない。


(では誰が?)


 イフリートは自身の腕に黒い靄が纏わりついているのを幻視した。


(まさか、シュターデンの観測者……だとするとこの小僧……いや!このお方は!)


 イフリートは驚愕し……そして自らの運命を悟った。


「偉大なる炎の精霊の長にして、四大精霊イフリートよ!我と契約されたし!」


 霧散しそうな意識の中、血を吐くような絶叫と共にトワは祝詞を完成させた。

 イフリートは薄っすらと笑みを浮かべた。

 小さく幼く、されど勇敢な新しい主との契約に……

 そして救星(きゅうせい)の任を共にする事となった己の天命に。



「はぁはぁ……生きてる……アタシ達……助かっ……」


 霧の様に消え失せる炎の魔人。

 入り口を塞いでいた岩がガラガラと崩れ落ちる音。

 祈祷師の少女は満足したように笑いながら…………意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ