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第九話 精霊との遭遇

 嶺は呆れた顔でトワを見下ろしていた。


「ぜぇぜぇ……ちょっと休憩……させた」


 旅立ちから四時間が経過。

 トワは疲労困憊でぶっ倒れていた。

 理由はトワのガイドで宛所なく草原を駆けまわっていたから。


 彼女が言うには精霊は足で探すのが鉄板らしい。

 結果、今の今まで無意味に走り回る羽目になってしまった二人。

 役に立たないガイドに嶺は漏れそうなため息を堪える。


「トワ。精霊を探すにしても闇雲では時間が掛かり過ぎる。何か手掛かりは無いのか?」


 嶺は期待せずに聞いてみた。


「はぁ、はぁ……魔素が濃い所を探せば精霊はいるよ。ただ、マジックスキャナーも無しに遠くの魔素の濃さなんて分からないけど……」


 トワが息も絶え絶えに答える。


(AS03。魔素の濃度測定は可能か?)

(魔素がナノマシンサイズの生命体であるならば可能)

(よし。この辺りで一番魔素が濃い場所を検索しろ)

(了解)


 嶺は無言でAS03に指示を出す。

 脳内に響く無機質な機械音声。

 AS03がレーダーで周囲を検索する事しばし。


(東に二キロ程の地点に一際魔素が濃くなっている場所あり)


 報告を受け嶺が立ち上がる。


「トワ、出発だ。魔素の濃い場所が判明した」

「えっ?」


 トワは目を見開いた。


「ちょっと待って!お兄さんってもしかして〈スキャン〉も使えるの?」

「〈スキャン〉?」

「しまった……そういえば野良だったんだ」


 トワは額に手を当てながら唸り声を上げた。

 どうやって今の状況を説明しようかと頭を悩ませているようだ。


「〈スキャン〉っていうのは、大気中の魔素に干渉して、周囲の状況を調べる魔法の事。創造主の魔法の一つで高等魔法に分類されるの。術者に対する負担が大きく、普通はマジックスキャナーっていうマジックアイテムで補助しながら使うの」


 トワが疲れた表情で言葉を絞り出す。

 だいぶ大事だった事に嶺は思わず頭を抱える。


 何も分からないこの世界でレーダーはまさに生命線。

 レーダーで得た情報を誤魔化しながら行動するのは骨が折れそうだ。


「まぁ、お兄さんが凄い魔法使いだって事は分かったよ」


 トワから羨望の眼差し。

 少なくともトワ相手なら〈スキャン〉持ちで誤魔化せそうだと、ホッと胸を撫で下ろす。


「えっと?こっちで合ってるの?」

「あっ……あぁ」


 トワの問いに我に返る嶺。

 創造主の魔法……色々と懸念事項はあるが今は精霊を見つけるのが先決。

 嶺は思考を打ち切り、トワを先導する形で歩を進めた。



「ここだな」

「ここって……」


 嶺達が辿り着いたのは洞窟。

 中から異常な熱気と薄っすらと赤い光が漏れ出ている事から、溶岩が噴出していると推測される。


「ナニ?……この異常な魔素の濃度は……」


 洞窟を少し進んだ所でトワに異常。

 全身から滝の様な汗。

 顔色は青ざめ、手と膝には僅かな震え。


「どうした?具合でも悪いのか?」


 嶺が心配そうにトワの顔を覗き込む。


「お兄さん!もしかして分からないの⁉ここはマズイ!引き返そう!」


 狼狽するトワ。

 事態がいまいち呑み込めていない嶺だったが、このままではトワが危ない事だけは理解できた。


『ようこそ、我が住処へ。歓迎するぞ!風と草の民の祈祷師よ』


 洞窟全体を揺るがすような野太く、そして重々しい声の波動。

 背後からガラガラと何かが崩れ落ちる音。


「どうやら閉じ込められたようだな」


 心の中で舌打ちを打ちながら、冷静に現状把握をする嶺。

 日光が届かなくなった洞窟の真ん中でヘタレ込むトワ。


(警告!洞窟の奥より高エネルギー体接近中!)


 嶺の脳に響くAS03からの警告(アラート)


「トワ、下がっていろ」

「あっ……あぁ……」


 嶺の鋭い声にもトワは動く気配を見せない。

 その目は虚ろで口はだらしなく開かれ、涙と涎が服と地面をグショグショに濡らす。


(マスター。同行者トワの精神状態に異常あり。高エネルギー体が魔素を介して、トワに干渉していると推測)

「……チッ!それで祈祷師の護衛というわけか」


 嶺の持てる情報から導き出された答え。

 祈禱師は精霊と契約する。

 精霊と呼ばれる魔素の集合体はトワと契約の真っ最中なのだろう。

 攻撃の意思を剥き出しにしたまま……


「トワは……民間人は絶対に護り切る。それが宇宙艦隊士官唯一の誇り」


 嶺は決心を胸に目の前の異様を睨みつける。

 凶暴な笑みを浮かべる巨大な炎の魔人。

 身の丈は嶺の倍以上。

 筋骨隆々で赤々とした姿は威風堂々。


『小僧、お主が祈祷師の守護者か?我は炎の四大精霊イフリート。十秒だけ待ってやろう。身の程を弁えて娘を引き渡すか?それとも我に焼き尽くされるか?好きな方を選ぶが良い』

「ぬかせ!」


 嶺はコンバットモードを起動した。

 現地の服を模倣したホログラフが消え、無機質で厳ついパイロットスーツが露わになる。


 片や最新科学の粋を結集した装備を身に纏った武闘派軍人。

 片やこの惑星ルミナスでも最強格と謳われる四大精霊の一柱イフリート。

 今、SF世界の住人とファンタジー世界の精霊との闘いの火蓋が切られた。

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