第八話 旅立ち
眩しい朝日。
清々しい気分の中、嶺は朝を迎えた。
「レイ君。道中くれぐれも気を付けるんだよ」
「トワの事、宜しくお願いしますね。貴方にティオ=グラーフの加護があらんことを」
トワの両親に見送られながら旅立つ嶺。
その傍らにはトワの姿。
「なんかごめんね。お礼をするつもりが面倒を掛けちゃって」
「構わないさ。これも仕事だからな」
トワは謝罪しつつもどこか嬉しそうだ。
嶺もその笑みに釣られて少し口元が綻ぶ。
嶺達の目的地はこのユーゲント大陸の東に位置し、大陸で最も栄えた商業国家……ユルゲン商業連邦。
昨日セツナから受けた依頼と言うのは……
「でもまさか父さんがお兄さんに依頼するなんて思わなかったよ。精霊契約中の護衛なんて」
トワはエレメンタルに長けたグラーフ族の族長の娘。
そして彼女は連邦にある魔法学校の生徒。
彼女が帰省していた理由は精霊契約の為。
つまりトワは道中で精霊と契約しつつ、連邦に向かう必要があるのだ。
「気にするな。こちらとしても現地のガイドがいてくれた方が色々と助かる」
嶺がセツナの依頼を受けた理由は三つ。
一つ、生活費が必要だったから。
因みに報酬は護衛中の生活費+300ユルグ(10ユルグが一日分の生活費に相当)と現地の衣服(今の嶺の姿はパイロットスーツにホログラフで現地の服を投影したモノ)と旅道具一式。
二つ、精霊に興味を持ったから。
いつまでこの惑星で暮らすか分からない状況で、この惑星の常識を知っておく必要がある。
三つ、彼の本来の目的……この惑星からの脱出に必要な情報収集の為。
いくらこの惑星に愛着を持ち始めたからと言っても彼は宇宙艦隊の軍人。
原隊復帰を図るのは当然の義務なのだ。
連邦はこの大陸で一番栄えた国。
つまり人も物もたくさん集まる。
宇宙船若しくは通信機を作るにしてもその材料は必要になる。
材料を探すには情報が必要になる。
セツナの依頼と嶺の利害が一致したわけだ。
また、現地人であるトワのガイドを受けながら、魔素や精霊について学べるのも大きい。
「では行こうか。案内頼む」
「りょ~かい!それじゃ張り切って行きましょう!」
手を高々と掲げ飛び上がらんばかりの勢いで駆け出すトワ。
未知の世界でのゴールが見えない旅路。
だがトワの元気な声を聞いていると自然と不安が吹き飛ぶ。
思わず口元が緩む嶺だった。