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第七話 戦士の情け

 嶺は困惑していた。


「セツナさん?急にどうしたんですか?」


 首に突き付けた木剣からは僅かな殺気。

 嶺は反射的に距離を置いた。


「良い反応だ。殺気を感じ取った瞬間に距離を取った。お前さん、本当に戦士なんだな」


 嶺の目にはセツナがとても楽しそうに見えた。


「戦う理由だったか……トワに話を聞いてお前さんの力に興味が湧いた。それじゃ不足か?」


 セツナはニヤリと笑った。


「不足ですね。自分は軍人です。不必要な交戦は好みません。ましてや民間人と……」


 嶺は困惑した。

 彼の笑みの理由が分からなかったから……


「真面目だねぇ……じゃあ、理由を作ってやろうか。俺が戦いたいからだ!」


 セツナは嶺の脳天にめがけて木剣を振り下ろした。


「くっ!是非も無しか!」


 嶺は素早く間合いを取りコンバットモードを起動。

 瞬時に展開されるヘルメット。

 青白く輝く関節部。

 パイロットスーツのサポートを受け、嶺の身体能力が数十倍に高まる。


「そら!どうした!逃げてばかりだとおっ()んじまうぞ!」


 嶺は戦慄した。セツナの木剣が風を纏った。


「エレメンタル⁉」

「ご明察」


 セツナが木剣を横薙ぎ一閃。

 嶺の胴体を真っ二つにせんと風の刃が飛来する。


「くっ!」


 嶺は身体を屈めてそれを回避。

 身を低くしたままセツナに突撃。


「良い反応だ!だが甘い!」


 今度は唐竹割り。

 嶺は頭上から振り下ろされる風の刃を横に転がりながら大きく回避。


「動きは速い。反応もいい。だが避け方が素人だな」


 少しがっかりしたような声。

 まるで期待外れと言いたげだった。


 嶺から見たセツナの剣捌きは熟練者のそれ。

 隙が無く、相手の嫌がる所を的確に突いてくる。

 宇宙艦隊でもこのレベルの剣術使いはそうそういないだろう。

 防戦一方の若い嶺がヒヨッコに見えるのも頷ける。


「じゃあ、これはどうだ!」


 風の刃の乱れ撃ち。

 回避不能の面制圧。

 怒涛の攻撃に嶺は距離を離す。


「どうした!逃げてばかりじゃいつかやられるぞ!」


 距離が離れた所に間断の無い攻撃。

 このまま防戦一方で終わる……かのように思われた。


「なっ⁉」


 カンッと木剣が弾き飛ばされる音。

 セツナが驚愕の声を上げる。


(行動パターン解析完了。対戦者は民間人につき殺害は不可。投石による武器破壊を推奨)


 嶺の脳内に無機質な機械音声が響く。

 AS03……嶺のパイロットスーツに組み込まれた支援AI。

 嶺はあらかじめAS03に最適な戦術提案を指示していた。


 彼は無策で防戦一方になっていたわけではない。

 セツナの攻撃を安全に回避しつつ反撃のチャンスを待っていたのだ。

 セツナは嶺の事をヒヨッコだと勘違いしていたようだが、それこそが嶺の術中。

 彼の軍歴は十歳から八年間。

 宇宙艦隊の中でも実践経験豊富な武闘派だ。


「……はぁ、降参だ。強ぇなレイ君」


 してやられた……という気分なのだろう。

 セツナは両手を肩の高さでひらひらと振り、敵対の意思が無い事を示す。


「はぁ~、俺も歳かな?お前さんみたいな若造に後れを取るとはね」

「なんでこんな真似を?」


 肩で息をするセツナに涼しい顔の嶺が首を傾げる。


「お前さんが不安そうだったからだ」


 快活で人懐っこいトワによく似た笑みを浮かべるセツナ。

 嶺は肩の力が抜けるのを感じた。


「お前さんは記憶も無く、これからどうしたらいいか?これからちゃんとやっていけるのか?そういう不安を抱えていたんじゃないか?」

「……はい」


 合点がいった。

 如何にもお人好しなセツナらしい行動だと思った。


「お前さんは強い。この世界でも十分やっていける程度にな。グラーフ族の戦士長たる俺が保証してやるよ」


 セツナは満面の笑みで嶺の肩を叩く。


「なぁ。その腕を見込んで一つ頼まれてくれねぇか?報酬は弾むからよ」


 嶺は黙って頷いた。

 どうやら今の戦闘は就職面接も含まれていたらしい。

 まさに渡りに船だった。

 これから何をするにしても生活の基盤は必要だ。


 嶺は胸元のロケットペンダントを握りしめた。

 不安と……僅かな期待と共に未知の惑星での一夜は過ぎていった。

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