四十四
「私から入ろう」
火影様が先に入り、次にもう一人の武官が入り、その後を私も入る。
そうして白帝様が入った後、最後にまた武官が入り結界はまた元に戻るように修復されていく。
その様子を確認した後、私達は前を向き、本殿に向かって飛び始めた。
冬の国の人達はみんな外へ出て瘴気を散らそうと必死に対処しているようだ。総出で対処しているから悪しきものが涌きだしていない、もしくは涌き始めた時に対処ができているのだろう。
最悪の事態を想定していたが、思っていたより状況は良いようだ。
建物に近づくにつれて瘴気が濃くなっている。きっと本殿に春隣様がいるのだろう。私達は飛ぶのを止めて建物の敷地へ歩いて入っていく。
「貴方は秋の国の白帝様ではありませんかっ」
名無し様の一人が浄化しながら私達に気づいて声を上げた。
「玄帝を助けに来ました。玄帝はどこですか?」
「玄帝様は春隣様と一緒に本殿にいると思われます。我々も本殿に向かおうとしているのですが、何分この濃い瘴気のためなかなか近づくことが出来ずにいるのです」
名無し様達が神祇官、武官達と協力し、浄化と瘴気の封印を行っているが瘴気は衰えを知らず攻防が続いている様子だった。
私も無理に歩みを進めても瘴気に囲まれるだけで不利な状況になってしまうだろう。だが、瘴気の大本である春隣様をなんとかしなければ名無し様達も疲弊し瘴気に負けてしまう。
そう思っていると、シャランと澄んだ音が鳴り振り返ると白帝様が錫杖を取り出していた。
「道を作ります。皆さんは少し離れて下さい」
白帝様は長い錫杖を鳴らし地面を突いた後、手を翳して一閃を放つ。すると瘴気は一閃を放った場所は浄化され、一筋の道が出来ていた。
冬の国の名無し様達が何人も掛かって少しずつ本殿に向かっていたのだ。
どれだけ白帝様の力が凄いのかということが分かる。
「では私達は先に急ぎましょう」
「はい」
火影様を先頭に私達は本殿に向かった。誰も口を開くことはない。玉砂利を踏む音だけがし、否応なく緊張が張り詰めていく。
「瘴気が濃いですね」
「ええ、やはり春隣はここにいるのでしょう」
なぜ本殿に?
もしかして神への報告時に神界と繋がり、そこから神界に入ろうということなのだろうか。春隣様がそう望まれているというより、春隣様を利用して悪しきものが神界に行こうとしているようにも思えてくる。
神界に行ったとしても消されるだけなのに。何か目的があるのだろうか。
本殿に進むと瘴気が多く涌き出ている。
白帝様が浄化した場所も浸食をはじめている。
本殿の中は瘴気で見づらいが銅鏡の前に血を流し瘴気に縫い留められている状態の玄帝様の姿と身体から瘴気を出している春隣様の姿を確認した。
「気を付けろ」
火影様が声をあげた。
「宵闇、瘴気を」
「はい」
武官達は武器を構え、いつでも斬りかかれるような態勢になっている。
私は火影様の横に立ち、玄帝様に向かって手を翳し、瘴気を吸い始める。
白帝様は長い錫杖を手錫杖に形を変え、詠い始めた。
春隣様は私達の動きを確認した後、ゆっくりと体を動かすと瘴気が勢いよく吹き出す。
……あと少し。
コロリ、またコロリと瘴気は封印の玉に変化し、玄帝様は床に倒れ込んだ。
「玄帝様」
武官の一人が玄帝様に向かおうとするが、春隣様の瘴気がそれを阻んだ。
「玄帝様を助ける。宵闇様、苦しいだろうが瘴気を春隣様の瘴気もお願いしたい」
「もちろんです」
私はそのまま春隣様の方に手を向けて瘴気を吸い取りはじめる。
火影様が小さな炎で向かってくる瘴気を攻撃し、二人の武官が玄帝様の元へ向かった。
「玄帝様、今、お連れします」
武官が玄帝様の両脇を抱え、移動を始める。抱えられた玄帝様は小さく咳込み、血を吐いている。
かなり衰弱しているようにも見えるがなんとか間に合ったようだ。
二人の武官は急いで玄帝を抱えて本殿を後にした。
「……げ、ん、てい、さ……」
春隣様は声を出そうとしているがよく聞き取れない。
だがゆっくりとした声とは裏腹に瘴気は形を変え、一気に私達に向けて襲い掛かってきた。
火影様は剣に炎を纏わせ応戦する。
私は手を翳すのを止め、武器を出して白帝様の前に立った。白帝様が詠い終わるまでなんとしてでも守らねばならない。
新しくなった武器で瘴気の攻撃を受け止める。
神様から頂いた武器は瘴気を吸い右手から伝わってくる。
そして私の気持ちに連動するように武器に取りつけられた玉が淡く光り、薙刀の柄が短く変化して瘴気を集め始めた。
これは武器で攻撃するというより瘴気を集めやすくするように変化したのだろうか。
白帝様にめがけて攻撃をしていた瘴気は私の武器に方向を変え吸い込まれていく。左手からコロリ、コロリと封印の玉が落ちていく。
「宵闇、待たせたね」
「白帝様!」
私は瘴気を吸いながら横に避ける。
「宵闇、神様からの力を受け取り僕に渡してほしい。火影、僕が力を受け取る間だけでも保たせてくれ」
「畏まりました」
私は少し後ろへ下がり、神様にどうか力を貸して下さい。
春隣様を助けたい。
その一心で神様に願った。
すると『宵闇、待っていた。受け取れ』言葉と共に勾玉を通じて膨大な力が流れ込んでくる。
集中していないと力が溢れだし、暴走してしまいそうだ。
この力を白帝様に届けたい。
どうか悪しきものが倒せますように。
念玉に念を入れるように白帝様へ力を流し始める。私の念が白帝様へと流れだし、白帝様が柔らかな光を帯び始めた。
どれだけ時間が経ったのか分からない。
一瞬だったようにも思えるけれど、酷く長い時間が過ぎたようにも感じる。集中し神様からの力を全て白帝様に受け渡した。
「宵闇、ありがとう。火影、下がって」
白帝様の言葉を合図に火影様は横へ移動する。
途端に瘴気は白帝様に向かって攻撃を始める。
私は慌てて横から瘴気を吸い、白帝様に攻撃が当たることは避けられた。