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四十

 だが、そのことで春隣様が今回の犯人になるとは思えない。時間が経ちすぎているのではないだろうか。


「その当時の玄帝様と神祇官の長はどうなったのですか?」

「能力を剥奪(はくだつ)され、人間界に降りたのよ。悪しきものを生ませたからねぇ」


 竜田姫様はそう話をする。


 私はその話を聞いて心が痛んだ。


 玄帝様はきっと風読みに長けていたのだと思う。人間達に被害が及ぶ前に悪しきものを退治しなければならない。職務を全うしようとしていた。だから神祇官の方も反対しなかったのだろう。


「けれど、春隣様の気持ちも分からなくはないですね」


 私は素直な気持ちを口にする。


「宵闇、それは違う。本来なら一緒に組んでいる春隣が(うずら)に厳しく言うべきだったのだ。十分に癒し池で休むようにと。


 他の者は誰一人悪しきものになっていない。しっかりと休息を取らずにいた鶉が一番悪いが、春隣ももっと鶉に休むように言うべきだった」


 山吹様の言葉に思わず心臓が跳ねた。

 確かにそうだ。鶉という人はしっかりと癒し池で浄化をさせなかったことが一番の原因だ。


 私自身も耳が痛い。


『早く、急がないと』とばかり思っていたのかもしれない。


 私の周りにはこうして止めてくれる人達がいることに感謝しなければならないと改めて感じる。


「確かに、そうですね。ですが、春隣様からすればもうずっと前の話でしょうし、復讐する、ということには少し時間が経ちすぎているのではないですか?」

「そうだな。そこが問題だろうな」

「それに白帝様が命を(かけ)て消滅の白雷撃(はくらいげき)を放つほどの悪しきものはどうやって移動させてきたのかしら」


「もう一度四季殿に入るしかないだろうね。僕一人で向かってもいいけれど、やはり宵闇の力も借りて万全の態勢で臨みたいと思っている。


 群青(ぐんじょう)の攻撃で悪しきものは辛うじて残っているだけだろうけど、もし消滅させている時に新たな悪しきものを呼び寄せられたら動けないからね。宵闇は神の寝床に呼ばれたということはきっと何かがあると神々も動いているのだろう」


 白帝様の言葉に一同頷いている。


「宵闇殿が神の寝床へ行っている間、各国に知らせを出し、武官の訓練を一段と強化させておいた方がいいだろう」

「そうねぇ。私の方でも文官を人間界に出して悪しきものが涌いているか見て回り、衛門府に伝えた方がいいわねぇ」


「山吹様はアキコク様の補助と言っていましたが、どうされるのでしょうか?」

「さあな。当分は結界の維持に力を使うのだろう。この後すぐに祠に向かうことにする」


 こうして話し合いが進み、各国へは新たな白帝が決定したという事と、風読みが再開できるまでの間、太政官(だじょうかん)の文官は悪しきものが涌いているかを直接人間界に出向き確認する知らせを出すことになった。


 私は神祇官に戻った後、念玉に念を込め始める。人間界に落ちた時にはじめて人間の生活に触れ、神様達が彼らの世界を守ろうとしているのも理解した。


 アキコク様に貰った念玉に念を入れる時と同じくらいの時間で念玉に念をいれることができるようになっていた。


「番紅花様、少し白帝様の元へ行ってきます」

「分かった」


 私は念玉を大事に抱え、白帝様の元に向かう。すると社では白帝様が一人座っていた。


「白帝様、お待たせしました。他の名無し様はいらっしゃらないのですね」

「今、山吹がアキコク様のところで結界の補助を行っているからこちらの方で力を使わなくて済んでいるんだ」


「そうなのですね。白帝様、念玉を持ってきました」

「念玉に念を込めるのが早くなったね。それに力に変換する質もかなり良い」

 白帝様は念玉を受け取り、確認している。


「人間界に落ちた時に色々と考えさせられました。神様方の考えもほんの少しだけ理解できた気がするんです。勝手な理解ですが」

「宵闇は素直だからね。そんな宵闇だから神々も寝床へ呼んだのだろうね」

「ありがとうございます。念玉を渡したことですし、神の寝床へ向かいます」

「気を付けていくんだよ」

「はい」


 私は白帝様に一礼した後、神祇官に戻り、番紅花様に今から神の寝床へ向かうことを告げた。


 神の寝床は洞窟の奥深くにあると言われているのでしっかりと準備を怠らないようにしなければならない。


 神の寝床に呼ばれたのは神様からの祝福なのかそれとも試練なのだろうか。


「宵闇、気を付けていくんだ。あそこには松明が必要だろう。ちゃんと持ったのか?」

「もちろんです! すぐに帰ってきて悪しきものも、その原因もさっと私が解決してみせますから!」


 私は自分の抱える不安を一蹴するように笑顔で答えた。番紅花様もつられてフッと笑顔になる。


「そうだな」

「宵闇様、いってらっしゃい!」

 草の実さんも元気に手を振ってくれる。

「いってきますね」




 私はそのまま神祇官を出て秋の国の入口まで歩いてきた。ここから人間界まで行き、出雲の大社から西へ飛び山の奥深くにある場所を目指す。


 ふわりと自身の羽根を使い飛び始める。


 秋の国の結界を抜け、人間界に向かって飛ぶ。やはり白帝様達が言っていたように少しの瘴気は人間界に降りてきているが、悪しきものの影響は出ていないようだ。


 瘴気が降り始めた時に封印が失敗したのだと不安になったけれど、白帝様は白雷撃であしきものを攻撃し、瀕死の重傷を負わせたのだと知り、涙がでそうになった。


 白帝様が命を懸けて悪しきものが人間の世界に濃い瘴気を振り撒き、悪しきものが闊歩する世界になるのを防いでくれている。


 私も出来ることを頑張ろう。




 西に向かい二時間ほど経った頃、ようやく神の寝床と呼ばれる洞窟の前へと降り立った。


 確かこの洞窟の奥に神の寝床と呼ばれる場所があったはずだ。


 持っていた松明(たいまつ)に火をつけ、ゆっくりと奥へ入っていく。ひと気のない洞窟はどこからか水の音がしている。


 ごつごつと安定しない足元に気を付けながら一歩また一歩と奥へと進んでいく。そして奥深くに鍾乳石が棚田のようになっている箇所を見つけ、息をのんだ。


 小さな姿の神様が沢山おられた。


 洞窟内は暗いため松明を持っていないと歩けないのだが、神様から発せられる柔らかな光りが洞窟内を明るく照らしていて松明が無くても問題ないほどだ。


 小さな神様達は私を気にすることはないようでふわふわと浮かんで話をしたり、踊ったりと各々過ごしているようだ。

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