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十四

「宵闇、おかえり」

「番紅花様! ただいま戻りました」


 番紅花様は少し疲れている感じがする。


「番紅花様、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」

「問題ない」


 番紅花様はそれ以上追及されるのをよしとしない雰囲気で短く返事をした。


「宵闇、戻ってきてすぐのところ申し訳ないが、会議に入る」

「はい」


 私はすぐに奥の部屋に向かうと、既に七人の職員が座っていた。


 私は口を開くことなく一番下座に座り、番紅花様がゆっくりと上座に座ると番紅花様の補佐である千日紅(せんにちこう)様が進行役として口を開いた。


「さて、皆さん集まりましたね。この度の悪しきものの討伐はお疲れ様でした。春の国の蒼帝様から『この度の救援に応じて下さり感謝します』と言の葉が来ておりました。そして神祇官の方から詳細が送られてきました。今回の同時多発的に涌いた悪しきものについては一部の人間が関与していたようです」


「どういうことだ!? 何故人間たちは自分で自分の首を絞めていたのか」


 千日紅(せんにちこう)様の言葉にどよめきが起こったが「静粛(せいしゅく)に」と言われ、一旦口を噤む。


「目的は呪術者(じゅじゅつしゃ)が我々や神を捕えるためだということ。つまり使役(しえき)し、人間達の(まつりごと)の道具としたいがために今回のことが起こった」


「納得いきませんな。我々を捕えるためだとしても規模が大きすぎる。我々四国全ての天上人の協力がなければ人間が滅んでいた。数人の呪術者でそこまで出来るとは思えない」


 他の人も同じように頷いている。すると番紅花様が口を開いた。


「原因となったのは人間の呪術を行う者のせいだったのだろう。今回、都に湧き出た悪しきものを制御しきれず、我々が駆けつけた時には既にそのものは殺されていた。


 自業自得だ。が、背後にそれを利用した“もの”がいる。春の国の衛門府が調査を初めているが、判明するには時間が掛かるだろう。今、我々が出来ることを話し合うことだ」

「はっ」


 番紅花様の言葉に納得し、皆、頭を下げた。そして千日紅様が再び進行する。


「今回の神祇官で封印の玉ができ、三十ほど持ち帰った。玉は白帝様と名無し様で開封し、消滅させる手はずだ。我々はその様子を詳細に記録し、神や各国に報告を上げる。そこから神々からの神託を受けることになる。何か聞きたいことはあるか?」


 私は挙手し、疑問を口にした。


「あのっ、少し、今回の内容と違うのですがいいでしょうか」

「なんだ?」


「今回の出来事で多くの人達が怪我をしました。山吹(やまぶき)様と(あおい)様が封印の玉の処理を終えたら修行に入るそうです。その間に今回のような悪しきもの達が一斉に涌き始めることはないのでしょうか?」

「名無し様が修行に入られるのか……」


 ざわりとどよめいた。


「宵闇、今回は一斉に各地で起こったが、各国で協力し、神祇官と帝達が浄化も行っている。当分悪しきもの達が涌くことは治まっていくだろう」


 そうだった。


 私はすっかり失念していたけれど、神祇官で働いている人達は場所の浄化や封印能力がある人達が多いのだ。


 衛門府に所属している武官は火や風などの能力を活かし、瘴気を焼き、風で吹き消す。神祇官は封印の玉を作るのに術式を使うが、水などの能力で汚染された場所の浄化をするということもある。


 私は術式が使えず体内に取り込むという能力のため浄化する能力は持っていない。


「だが、なにもしないわけにはいかない。不測の事態を考え、名無し様が修行に入られるのであれば我々も次に襲撃がある事も想定して動かねばならん。まず情報を精査し、武器、人員の強化、神々からの言葉受け次第、動くことにする」


「番紅花殿、今回の出来事で多くの者が怪我をしている。白帝様も神降ろしをされたと聞いた。番紅花殿もその場にいて無事では済まなかったのではないか? 白帝様と共にすぐに癒し池に向かったほうがいい」


 この中でも一番の年長者の人が苦言を呈するように言うと、番紅花様は「そうだな」と一言だけ呟いた。


 私は番紅花様が心配になった。

 やはり怪我を隠しているようだ。


 それにしても神降ろしをすると周囲にいる者も巻き込まれてしまうのだろうか? 神降ろしをすること自体殆どないし、私自身見たことがないのでよくわかっていない。


「詳細は後日知らせる。今日は皆も疲れただろう。ゆっくり休むように」


 そう言って話は終わった。



 私は今日の報告書を書いていると、番紅花様は衛門府の武官と話をしてからそのまま神の癒し池に向かわれた。良かった。早く怪我を治して欲しい。


「報告書を書き終わりました」

「宵闇、お疲れ様! 今日はもう家に帰って休んだほうがいいわ」

「そうですね。癒し池に入ったとはいえ、なんだか疲れました。今日は休みますね。お疲れさまでした」




 私はふらふらと自宅へ戻った。


 家に戻り、腰を下ろした時にふと考えが浮かんできた。私はこうして休む事ができるけれど、葵様達は封印の玉を消滅させるまでずっと働き続けている。


 そして休む間もなく天津の祠に修行に入られる。私にできる事はないのかもしれない。でも、それでも、葵様が無事に修行を終えることができるように祈り、何かできないかと考える。


 そうだ、今なら間に合う。


 私は引き出しから取り掛かっていた磨いていたいくつかの玉と糸を取り出し、羽織り紐を組み始めた。


『どうか無事に戻ってこられますように』と強く念じながら丁寧に作業をしていく。


 できた!


 時間が掛かったけれど、一つの羽織り紐を作ることができた。安堵し、私はそのまま眠りについた。

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