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それは遠い昔の出来事で

 ふと気が付いたら、俺は布団の中にいる。

 というのも、高い熱を出したようで、頭がぼーっとしているからだ。

 うつらうつらしながら、俺は枕元にあったバナナに手を伸ばした。


 やわらかい筈の──完熟バナナなのに、飲み込むのが辛いな。

 喉が痛いからスポーツドリンクを飲むのさえ…… キツい……


 そういや、今はいつだろ…… たぶん6月の半ばくらい…… かな。

 庭の八仙花が綺麗に咲いているから、たぶんそうだろう。

 こいつは実に不思議…… と言っても、魔術的なものとかじゃない。

 母さんがこの花が好きだと言うので親父が挿し芽で増やしたんだけど、花の色は元の木のものと違うのがあるんだよ。


 元の──挿し芽のためにとった枝についていた花は鮮やかな青色だった。

 でも、増やした方の花の色は薄紅色だったり鮮やかな赤紫色だったりするんだ。

 元は同じ枝なんだから、そいつが育てば青い花が咲くはずだろ?

 小さいころは、それが実に不思議でならなかった。


 それが、俺が勉強に力を入れるようになったきっかけ…… だ。

 分からなかった事や不思議に思っていた事も、勉強を進めていくうちに段々と分かってきたんだ。それが、たまらなく楽しかったんだよなぁ……


 小さいころと言えば、爺ちゃんに連れられて百里ヶ原の空軍基地に行ったのも、こんな季節だったかなぁ。たしか昔の戦闘機の修理が終わったから、一緒に見に行こうって話になったんだよ。


 せっかく修理したんだから、今度の航空祭に出そうって事になったから、そのための試験飛行を見学するんだそうだ。軍のひとも頑張るなぁ……

 滑走路の中ほどでプロペラを回し始めた飛行機を見た俺は、すごく興奮していたのを憶えている。


「ねえ、お爺ちゃん。あれ雷電(らいでん)…… だよね?」


 深緑色に塗られたずんぐりとした胴体の横に、黄色い2本の稲妻マーク。

 絶対に見間違える筈がないよ。あれは悲運の戦闘機、雷電11型だ。

 どうして、悲運なのかと言うと、雷電は試作だけに終わっているからなんだ。


 でも、決して雷電がダメな戦闘機ってわけじゃない。

 ソロモン諸島沖で試験飛行中だった試作3号機がイビムの重爆撃機を撃墜したのは、俺たちの間では有名な話だ。


「どうじゃ、驚いたろう?」「うんっ!」


 エンジンの回転数を上げたのだろう、きいぃぃいん…… という排気タービン特有の金属的なエンジン音を響かせながら、雷電はゆっくりと動き始めた。

 するすると滑走を始める雷電が、まさに離陸しようとしたその時に。


 急に地面が揺れたんだ。

 それも真下から、どんっ! って殴られたような感ように……

 俺の身体も一瞬地面から浮き上がるような、そんな強烈な揺れだった。


「じっ、地震?」


 ぐらぐらと地面が波うつような揺れのせいで、俺は思わず地面にしゃがみこんでしまった。遠くの方では基地の建物がガラガラと音を立てて崩れ始めた。

 離陸できなかった雷電がひっくり返って炎に包まれている。

 そして、俺は地面にしゃがみこんだ俺の目の前で……


 だんだん、目の前の風景に霞がかかったようにぼやけてきて……


「おにいちゃん…… お兄ちゃん! 目を開けてよぉ……」


 ……遠くから誰かが呼んでる声がする。


 目を開けてって言われても、俺はちゃんと……


 ああ、なんだよ。

 せっかくいい夢を見ていたのにさ……


「んむ?」


 ぱかっと目を開けたら、視界一杯に飛び込んできたのは…… 志帆の顔だった。

 今にも泣きそうな顔をしているな……


「よかったあ、お兄ちゃん…… 死んじゃったかと思ったよぅ」


 半ば泣き笑いの表情をした志帆は、そのままぺたりと床に座り込んだ。

 だが、しばらくすると、いきなり志帆の様子が変わった。

 いきなり空気が重くなったというか、肌寒さを感じるぞ……


「……でも、薬を飲んでいないお兄ちゃんは、悪い子なんです」


 へっ? なんでだ? 薬を飲んでないからだって?

 あの錠剤はすごく苦いんだよ。センブリを齧る方がよっぽどマシ……


「お仕置きですっ!」


 うごあああああ! にがいっ、苦いぃいいっ!

 みずを… くれぇ……

センブリは消化不良や食欲不振など、胃の調子がおかしくなった時に使う漢方薬なのです。あれを愛飲できる昭和世代は強靭な何かの持ち主かも。

ちなみに私の住んでいる界隈では、簡単に買う事が出来たりして。

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