看護婦さんは子供好き
星崎家の子供たちは、かなり大人びたところが見受けられる。
それは思春期の子供が背伸びをしているだけだろうし、おかしな事ではない。
だけど、彼らは異常な──異常という範疇には収まらない──存在なのだ。
なぜなら兄の方は、不死身の肉体の持ち主だ。それが分かったのは、10年以上も──彼がまだ小学校に上がってしばらくの事だ。
あの時の事は、私もよく憶えている。
私が医師免許を受け取ってから、初めての患者だったからね……
……ああ、失敬失敬。自己紹介がまだだったね。私は瑞希。後藤 瑞希だ。
父が経営している病院で看護婦をしている。たまには医者もやるけどね。
それで…… 話を戻すけどいいかな?
あの交通事故は父親の車を勝手に乗り回したドラ息子が、何件かの人身事故を起こした挙句に電柱に激突したというものだ。
こいつがまた近所でも有名な札付きだでね。なまじ父親の地位が高かったから、事件は、そいつの手でもみ消されてしまったようだ。
ちなみに、この事件では3人が重軽症を負っている。
最初に当て逃げされた老人は、打撲程度で済んだ。膏薬を処方して終わり。
そして2人目の怪我人は次の事故は夜勤明けの工員──それも翌月に結婚を控えた女工──だった。骨盤骨折の治療を受けていた彼女のお腹には、新しい生命が宿っていたというのに。いや、なんとか助けたけどね。
そして、最後の一人が星崎家の長男──疾風くんだ。
病院に運ばれてきた彼の身体は、はっきり言って人間の残骸だった。
彼はイビム製の大型自動車と電柱の間に挟まれたのだのだから。
「明日には名前が変わっているかも知れないなぁ……」
手術室に運ばれた彼の身体を見れば、誰もが『時間の問題』だと思っただろう。
はっきり言って父──院長先生も諦めていたくらいだから。
だけど、彼は……
その日の夕方には、何事も無かったかのように退院したのだ。
それからも、彼はよく病院にやって来る事になるのだけど……
病院に来る理由は、ものすごく間抜けなものばかりだ。
正月用に大量に作っている煮物のつまみ食いに失敗して鍋の中に落ちたとか、イノブタの群れににちょっかいを出して、ぐちゃぐちゃにされたとか……
それは小学生の他愛もない出来事だと言われれば、そこまでかも知れない。
でもあれは2年前の──中学に上がる前の年の事だけど、──で、やらかした時は…… さすがにキレた。
世間様からは温厚な看護婦さんで知られる私でも、キレる事はある。
「な・ん・で、キミは…… 2B弾をほぐそうなんて思ったのよっ!」
2B弾──単3電池くらいの花火の一種だけど、ぶっちゃけ爆竹の親玉だ。
彼はそれを大量にほぐして、中の火薬を集めていたそうだ。
ちなみに、集めた火薬は全部で1キロくらいはあったらしい。
「それだけの量の火薬を、いったい何に使うつもりだったのよっ!」
「特撮ヒーローごっこをするのに必要だったから、つい……」
「それで自分を吹き飛すなんて、洒落になってないっ!」
本当に…… 彼は、怪我の治りだけは異様に早いんだ。
……それに比べれば、妹の方はまだ可愛いものだ。
いや、見た目と中身が一致するとは限らないという典型、かな。
あの子は中学校1年生でありながら、帝大の学生としての身分も持っている。
小学校を卒業するまでに中学と高校の卒業資格を手に入れ、帝大にも合格。
1回くらいなら、まぐれ当たりもあり得る。それでも確率はかなり低いけど。
でも、それが3回も続けばどう思う?
異常を通り越した何かを疑いたくならない?
いや、私の知る限りでは、あの家系そのものがおかしい。
これは想像だけど、彼らの祖先のひとりがミュータントだったのだろう。
その遺伝子が安定して存在すること自体が確率が低いんだけど……
今となっては、それが新しい種として安定してしまったかも。
だから、もしもあの子たちがミュータントだとしたら。
今の世の中は、住みにくいかも知れない。
あの子たちはエルフのように、魔法を使えるわけではないし、ドワーフのような頑丈な身体の持ち主でもない。
言ってしまえば、ただのヒト族なのだから。
私はあの子供たちに、興味を持った。いいえ、興味というよりも愛着かな?
いや、もっと深いところでシンパシーを感じてしまったのだと思う。
私の置かれた境遇にも似た、2人の子供たちに。
いや、私の境遇は彼らとは違う… か。
でもお互いに似た者同士だから、仲良くしておこう。
こう見えても、私は子供好きなんだ。
2B弾はいわば大型の爆竹のようなもの。
半世紀以上も前に発禁処分となっているので、もう手に入りません。
似たような名前の商品はありますが、オリジナルとは別物なのです。




