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早見すみれは、かく語りき

 しーちゃん… 星崎さんとは、幼稚園に入る前からの仲良しさん。

 気の毒な事に、彼女はあまり身体が丈夫じゃないの。今はそうでもないけど、小3くらいまでは熱を出して寝込む事が多かったから。

 その時に看病をしてくれたのは、2歳年上のお兄さんなのよねぇ。


 しーちゃんのお兄さん──疾風さんは女子に人気があるわねぇ。

 なぜ疾風さんが宵闇の君と呼ばれるようになったのか、はたして誰が言い出したのかは分からないけど。

 言い得て妙とはこの事かも知れないわぁ。


 彼の髪は、天使の輪が浮かぶほどにさらさら。

 その色は女子なら一度は夢みる烏の濡れ羽色。

 そして日焼けをしない彼のお肌はすべすべで。

 学生服の詰襟を、ぴっちりと閉じているから。


 漆黒の瞳と相まって、完全にモノトーンのカラースタイルを貫いているの。

 なのに、彼だけは極彩色に見えると言うから不思議なものねぇ。

 そういった人だから、卒業式が終わってからの記念写真は2時間待ちとか。


 私は彼らほど熱心には慣れないかなぁ。

 私にとって彼の存在は、それほど大きなものではない。

 とかく男はごつごつしているだけ。柔らかくはないし、いい匂いもしないもの。

 もしも疾風さんが女子だったら、惜しみなく愛情を注ぎ事が出来るのに。


 やっぱり百瀬さんが…… あの子は柔らかいし揉み心地もなかなか……


 本人は平均的で面白味のない私の身体のどこがいい? って、言うけれど。

 ハーフエルフの私の──尖った耳を見て腰が引かなかった、私の仲良しさん。

 彼女になら、どんな秘密も何でも話す事が出来る仲良しさんなのよぉ。

 だから、私は彼女に惜しみなく愛情を注ぎこんで……


 ……こほむ。


 疾風さんは無事に中学校を卒業。来月からは学院に通う事になるから、この騒ぎもしばらくすれば収まるでしょうねぇ。


 騒ぎと言えば…… 疾風さんの周りでは色々な事があったわねぇ。

 たとえば、女子の誰かが彼にお付き合いを申し込んだりすると、もう大変。

 何故か犬に噛まれたり、庭にびっしりと野良猫や野鳥やらがが集まったり。

 それ以前に、周りの女子からの風当たりがねぇ……


 でもバレンタインやお彼岸の時期に、ちょっとした小物と一緒にお菓子を入れたり。もちろんプレゼントの送り主は名乗り出る事を許されないけれど、その程度の事なら誰も何も言わない。

 疾風さんはそういう小物を、しばらく身につけてくれるのよ。


 以前はフェルト細工のクリーチャーを…… あれは本当に酷い出来だったわ。

 そういう行き過ぎたプレゼントの場合は、たとえ匿名でも… ちょっと、ね。

 女子の間では、そういうのはすぐに広まるのよぉ。


 ひそひそ、ひそひそ……


 そこの男子たち。日頃の行ないには注意なさいね?

 女子のひそひそ話を舐めちゃいけないわよぉ。

 ひそひそはエアコンのダクトを通り抜け、校長室の扉をすり抜けて。

 お風呂場に籠る湿気のように、あっという間に学校全体に広がるから。


 ひそひそ、ひそひそ。


 そして、ひそひそ話はクリーチャーの制作者にたどり着く。


「ねえ、野々浦さん。星崎君って、とっても心が広いわよねぇ」

「あんなクリーチャー人形まで……」「ちがっ! あれは猫神様の……」


 彼女は絆創膏だらけの手を振り回しながら、必死になって言い訳をしているけれど…… バフンウニを大きなハンマーで叩き潰して松やにで固めたようなアレのどこが猫神様なのぉ?

 さすがにあれは委員長のこめかみに梅干しが出来るのも当然よねぇ。


「……連れて行きなさい」「いやあぁあああ!」


 どこからともなく現れたとんがり帽子をかぶり、覆面をした数人の──たぶんこの学校の生徒?──に引きずれれていく野々浦さんの後ろ姿に、私は心の中で手を合わせる事にしたわ。

 野々浦さんは、ひとつだけ忘れていた事があったのよぉ。


 それは委員長は、ディープな… こほん。猫神様の敬虔な信徒だという事を。


 あれから1年が過ぎて、野々浦さんは改宗したそうだけど。

 強く生きてほしいものねぇ。


 そして、私たちが中学校に進学するまでの1年間。

 疾風さんの周りでは、他にも色々な事があったけど。


 今となっては良い思い出と言う事になるのでしょうねぇ。

とんがり帽子に覆面姿…… これはカピロテという衣装です。

スペインでは復活祭の日に、これを身につけた人たちが各地を練り歩くとか……

日本では、どっちかと言うと悪の首領というイメージですけどね。

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