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試験に合格したけれど

 こうして考えてみると、時の流れってのは意外と早いもんだ。

 中学を卒業してから、もう1年も経つんだな……


 去年の俺は努力した甲斐もあって、学院の入学試験に合格する事が出来た。

 学院は、創立以来ずっと帝大の入試でストレートに数十人は合格者を出している学校なんだ。


 いいか? 『末は博士か大臣か』って言われるあの帝大だぞ。


 だから学院に入学が決まれば、親戚一同を招いて宴会を…… って事になる。

 両親や親戚にとって、俺が学院に入学するってのは、こういう事なんだ。


「なにしろ頑張ったもんなぁ、俺」


 とにかく勉強漬けの毎日だったもん。ときどき母さんが夜食を持ってきてくれた事もあったけど、夜食を鉛筆使って食べてたって言ってたなぁ。

 ある意味では、強迫観念にとりつかれていたのかも知れない。

 俺が5分遅れたらライバルは、遅れた以上に先を行っているかも知れない…


 そういう日が続いていたから試験日の前日も、とても寝る気分じゃなくてさ。

 気が付いたら机の前で参考書を開いてたもん。


 そして迎えた試験本番の日。


 試験問題を見た俺は、何だか肩透かしを食らった気分だった。

 あんな簡単な内容でいいのか? って思いながら答案用紙を埋めていったよ。

 記入の終わった答案用紙を念入りに見直しも…… それでも抜けはあったか。

 翌日の新聞には試験問題と解答が乗っていたけど、さすがにどの教科も満点は取れてなかったなぁ。


 そして、やってきた合格発表の日。

 俺はひとりで学院の門をくぐったんだ。

 それはさすがに親が付き添って… という歳でもないからな。

 そして、後者の前に張り出された受験番号の列は、何度も何度も見直したよ。


 それから10分余りが過ぎて…… 何と言ったら良いかな。

 俺は急に虚脱感に襲われたというか、

 どっと疲れたというか、心の中にぽっかりと穴が開いたというか……


 そこから先の事は、はっきり言ってよく憶えていない。

 どうやったかは分からないけど、まっすぐ家に帰り着く事は出来たみたいだ。


 そうして、リビングのテーブルに入学許可証と襟章をきれいに並べた。

 これを見ていると、ニマニマが止まらないぜ。

 だって俺の学級で学院に受かったのはたった一人だけからなぁ。

 今にして思えば、この時が俺のピークだったと思うんだ……


「んっ?」


 部屋の外から、ぱたぱたと廊下を走る足音が聞こえてきた。

 この足音は…… 志帆(しほ)か。

 あれだけ家の中を走り回るなって言われているんだけどなぁ。

 婆ちゃんにバレたら叱られるじゃ済まないぞ?


「ねえお兄ちゃん!」「どうした志帆。やっと毛が生えて……」

「それはまだ…… って、ちがぁう!」


 やや興奮した面持ちで俺の部屋に駆け込んできた妹が口にしたのは、とってもショッキングな内容だったんだ……


「……受かっちゃった!」


 手に持った1枚の紙を、ずびしっ! と俺の目の前にかざしたんだ。

 その紙を見た俺は時間が…… 空気が、凍り付いたかと思ったよ。

 志帆が見せたのは、帝大の入学許可証だったんだ……


 あの帝大だよ。

 それも科学分野でアジアの最高峰と言われる理学部に合格って…… あそこの競争率どんだけだと思ってるんだよ。

 それも2浪3浪当たり前の世界だぜ? そこを一発って……


「そっ、そうか… そいつはよかったなぁ……」


 内心の動揺を押し殺して──心の中の俺は、頭を抱えて叫び出していたって言うのにさ──笑顔を浮かべる事が出来た俺はえらいと思う。


「そいつを仏壇に供えてこい。ご先祖様にも見せておかなきゃな駄目だろ」

「うんっ!」


 合格証書を片手に、くるくると楽しそうに踊っている志帆に、合格証書を仏壇に置いて来いと言って、部屋から追い出した後に俺は膝から崩れ落ちたよ。

 そのとき、身体から音もなく… いや、がらがらと音を立てて……

 俺の中から、ごっそりと何かが抜け落ちたような気がしたんだ……


 たぶん明日への希望とか、そんな奴が…… な。

お兄ちゃんは、なんにも悪くないんです。妹ちゃんが異常なだけなんです。

でもでも、でもでも。

作者(あたし)はこんな異能が欲しかったんだい!

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