もういくつ寝るとお正月
クリスマスが過ぎれば、世間様はお正月モードに突入する。
久々にラガッツァと鬼ごっこをしちゃったよ。もちろん勝ったのは俺だ。
年末年始の歩行者天国ってのは、どこに仕舞ってあったんだ? ってくらいに、人が溢れかえっているからね。
そして、今の俺は歳神様を迎える準備の最中だ。
「竹は切ってきたし、わらも手に入ったから門松を作るぞ!」「おー」
先端を斜めに切った青竹を3本。長さはオッケーだから、ここをこうして……
昨夜テレビで開拓村で門松を作っていたのを見ていて良かったよ。
「ふっ、どうだ?」
「残念ながらちょっと違うんだなぁ。いいか疾風、ここの縄の数はな……」
「あ……」
父さんが手直しした門松を門の両側に飾るころになると、どこからともなくいい匂いが漂ってきた。
「お父さん、お兄ちゃーん、そろそろ甘酒出来るって」
おおっと、そいつは助かる。さすがに今日は寒い。寒すぎる。
だって今朝、新聞を取りに行ったらは地面が凍っていたからなぁ。地面が凍り付いて霜柱すら出ないなんてさあ、どんだけ寒かったんだってね。
こんな寒い日の温かいものは、それだけで御馳走だよ。
「はいあなた、お疲れさまでしたね」
「今年の門松は疾風が作ったんだぞ」
「あらまあ、明日は雪でも降らなきゃ良いけど」
母さんは、大げさに驚いているけどさ、そりゃないだろ。俺だってやる時はやるんだ。竹は中学校のふもと──台地の縁にある竹藪──から切り出してくればいい。松の枝なら庭のを適当に切り飛ばしてもってきた。
藁縄ばかりは無理だから、ホームセンターで買ってきたけどね。
「こっちも大掃除が終わっているから、あとは餅だけね」
ちらりと縁側を見ると、大きなバケツが今や遅しと出番を待ってるじゃないか。
「ねえねえ、私もお米を準備するのを手伝ったんだよ。えらい?」
ごろにゃ~んと、志帆が俺にくっついてきた。
そう言えば、何かあるとくっついてくるようになったな。中学に上がったというのに、兄離れも出来ないとは…… うむうむ、ういやつよのう。
「あたし、酸っぱくないもん!」「ふむん?」
わはははは。こいつ脳みそが冬眠モードに入ったか?
志帆が目がとろーんとしてるのは、すんごく眠たくなっている証拠だ。
眠たいんだけど、眠りたくない…… 体力切れで寝落ち寸前。
その証拠に身体が温かくなって眠る体勢に入っている。
まだ夕方にはちょいと早い時間なんだが、昨夜は徹夜でもしたのかな。
「あらあら、この甘酒はまだ早かったかしらねぇ」
ころころと笑ってるけど、母さん。甘酒に何かした?
甘酒なんか酒粕を水で溶いてゆっくり温めるだけだろ。じゃなかったら、米と麹を保温鍋に入れておくだけの、シンプルなものなんだが。
「せっかくお父さんがいるんだから、ちょっと…… ね」
「うぁああーっ!?」
母さん、やっちまったね? 酒粕を溶くのに日本酒を使ったろ。
で、適当に温めてから保温鍋で…… 去年もやったよね、それ。
今年は日本酒の匂いがしないから大丈夫だと思っていたけどさ。
あの時は甘酒を飲み過ぎた志帆が酔っぱらって大変な事に……
「うふふふふ……」「はーっはっはは」
……駄目だ、こいつら。
すっかり2人の世界にはまり込んじゃってるよ。
間違いなく甘酒だよ。それも砂糖と酒粕が入った甘い酒だ。
それも普通のものより度数の高い日本酒入りのやつな。
こんなもの子供に飲ませる親がどこにいるんだよぅ……
「ここにいるじゃなーい」「あたひは、よってないりょ」
……駄目だ、酔ってる。父さんは…… やっぱり寝てるか。
今日は御用納めだってのに職場から有給むしり取れたんだから、よっぽど仕事を頑張ったんだと思うんだ。
……やっぱ疲れてるんだろうなぁ。
「志帆、布団で寝ろ。こんな所で寝たら風邪ひくぞ」
「やだよぉ…… しぃほぉわあ、おにーちゃんといりゅうにょぉ……」
俺は志帆に全身でしがみつかれながら、布団を敷いた。
醸造所での日本酒はアルコール度数は20度以上になる事があるそうです。
アルコール度数の調整その他の理由から、加水(水で薄める)したものが店頭に並んでいるのですが。
昭和時代に出回っていた日本酒、今の人には強すぎて飲めないだろうなぁ。




