持てる者は、持たざる者
僕はラガッツァ。偉大なる神、ヤルヤラ様の祝福を受けたエルフ族の一員だよ。
残念なのは、父親がここヤポネスに住むヒト族だと言う事かな。
でも心配しないでくれたまえ。僕はとても母に似ているからね。
こうして君たちに愛を分け与える事が出来るのも、そのお陰なのさ。
うんうん、みんな今日も可愛いねぇ。
君は… 鶯宿さん。初めましてで良いのかな?
ハグで良い? うんうん、ぎゅーっとしてあげよう。
おやおや大丈夫かな。僕のポケットティッシュを使いたまえ。
今日の龍峡さんと白加賀さんはユニホーム姿が凛々しいねぇ。練習試合なのか…… シオカ高校の射撃部も国体の常連校だから強敵だね。昔から勝負は時の運とも言うから、無理だけは禁物だよ。
優勝したらデート? うん、いいとも。
さあさあ、すまないがそろそろバスに乗せてくれたまえ。
名残惜しいが、僕も学院に行かなくてはならないんだ。なにしろ、むこうでは星崎君が僕を待っているだろうからね。
愛する彼に寂しい思いをさせる訳にはいかないよ。
うん、それではまた。
ぶおおおおお……
僕を乗せた路線バスはディーゼル・ハイブリッドエンジンを響かせながら、坂道を駆けのぼる。今でこそ新しい街道を走っているが、この新道が出来るまでは大変な苦労をしたらしい。
旧道──江戸時代以前から使われてきた街道は、バスが1台通れるほどの幅しか無い上に、とても勾配がきついのだ。
自転車に乗って、この坂を上りきるのは運動部員くらいではないだろうか。
この坂を上り切った先にあるのが学院なのだ。
バスに乗り込んだラガッツァは、一緒に乗り込んできた少年に背中をどやしつけられた。
「よう、無節操モテ男。今日も精が出るじゃねぇかよ」
「いやだなぁ、彼女たちに精なんか出していないよ」
「へえへえ、そうかよ」
ドゥーラ駅からバスに揺られる事20分。ドゥーラ城を望む大通りを抜けて、北に向かって台地を上り詰めた先にある停車場は、ちょっとした拠点でもある。
なぜなら、ここから西に向かえばクバツに向かう街道が、まっすぐ進めばシオカに通じる街道への分岐点だからだ。
停車場では乗客の半分以上が降りる事になる。
そのうちの大半は、クバツ方面に──歩いてもさほど時間のかからない所にある工科高校の生徒たち。残りは学院の生徒だ。
まだ夜も明けきらぬ早朝の始発バスに乗って学院に向かうのは、進学予備課程か、はたまた運動部か。そうでなかったら、よほど奇特な者と言う事になる。
2年生のラガッツァは後者と言う事になるが。
「そう言えばクマヨさんに告白したと聞いたけど。結果を教えてくれたまえよ」
「……聞かないでくれ」
サラサラと砂になりかけながら、あっさり断られたと言う親友は、乾いた笑みを浮かべていた。さすがに2高の生徒は身持ちが固い。
かの高校は良家の子女が集う女子高なだけあって、男を見る目も肥えている。
彼らにとって、単に学院の生徒と言うだけでは駄目なのだ。
そして家柄──華族とか士族──というだけでも駄目だ。
そう言う中でも、常に人気投票でのツートップのひとりがラガッツァだ。
不動の1位になる事が出来ないのは、ひとえに懐の広さだという。
とにかく彼は美を好む。そして守備範囲はとてつもなく広いのだ。
美女でも美男でも──性別は関係ない。
年齢も幼女からアラフィーまで、なんでもござれだ。
そして、それを象徴するかのように可愛い女子に囲まれている。
だがしかし、だ。
彼は孤独だった。
彼が良しとしたパートナーがいたとしても、周囲がそれを許さない。
それが天陽の君──宵闇の君と並び立つ者の不幸とも言えよう。
だが、彼はひとりではなかった。
──愛があれば、性別なんて。
彼を取り巻く女性たちから、異を唱える者は……
……誰も、いない。
ラガッツァ君は、誰が何と言おうと絶世の美少年なのです。
ある意味、星崎君とは対極の位置にいる…… のかな。




