お母様は激おこです
志帆が瑞希さんに連れられて病院から帰ってきたので、何があったのかを娘に問い質してみたのだけど……
「そんな理由で?」「私にとっては重大な事なんだよぅ」
今回の一件は、完全に志帆の暴走だ。思春期というのは、大人になる事に憧れるを持つ年頃だというのは理解できるわよ。私だって、そういう経験なら、いくらでもあるから。その手の水着の1枚や2ま…… こほむ。
志帆が熱射病で入院するきっかけになったのは、フリルたっぷりのオフショル姿を疾風に見られた事らしい。
その姿を見た疾風からは、板こんにゃくに大きなフリルを巻き付けたような姿が、あまりにも哀れ…… という無残なコメントが出る始末。
そもそも水着はどこから… お隣のアパートに住んでいる…… あいつか。
彼女はそこそこ売れている漫画家──本名はあえて伏せるけど──筆名は惑乱。
そして、私が出た高校の6期下の後輩でもある。
「これはお仕置きが必要な事案かもねぇ……」
初めて惑乱に会ったのは、まだ駆け出し──と言うよりも見習い──尻に殻の付いたヒヨコだった。志帆はよく熱を出して寝込む子供だったから、その時に疾風の面倒を見てくれていた頃に、交流が始まった… かな。
彼女の漫画が売れ始めたのはそのころから。
版元は『普通の』漫画も出版している良心的かつ中堅クラスの出版社だ。そうでなかったら、子供たちを近づけるような事はしなかったかも。
で、彼女の漫画もまあ、悪くはない。作風は全年齢寄りってところかしら。
絵も悪くないし、ストーリーに無理はないし、ジャンルにも偏りが無い。
ちょっと物足りない気もするけど、全体的に見れば悪くはない。
うん、これなんか今夜あたり旦那様と一緒に読んでみるのも……
こほむ。
休日出勤の旦那様送り出した私は、朝のテレビ小説で充分に推しを堪能して。
息子はシオカの中学校に文化祭の見物に行ったし、志帆は寝ている……
「ふむん」
しばし考えた後で、後輩の住むアパートに行く事にした。
ピンポーン……
何回かチャイムを鳴らしたけれど、反応がない。
居留守を使っているわけではないのは、気配でわかる。
「病気で動けなくなっていたら拙いわね… 仕方が無いか」
私は左手に光る結婚指輪に精神を集中させると…… 扉を通り抜けた。
これは比喩でも何でもない。文字通りの意味で、戸板を通り抜けたのだ。
こんな事が出来るのもクバツに住むエルフの大長老様が、旦那様に授けてくれた魔法の指輪のお陰なの。
そしてね。
封じ込まれれている魔法の種類こそ違うけど、旦那様とお・そ・ろ・い。
「これは酷い… 有様ねぇ」
改めて部屋の中を見回すと…… はっきり言って駄目人間の巣だ。
隅の方で山になっている洗濯物、ゴミ箱からあふれ出る精力剤のびん……
実家に自活宣言をしたのは良いけど、アラサーにもなって身の回りの整理も出来ないとは。
当の本人は寝る前に全身パックしながら寝落ちしたのだろう。
ところどころカピカピにして大の字になって寝ている。
その姿を見た私は志帆の事とは別に、何だかこう、ふつふつと……
「んぅ…… うへへへ……」
能天気に惰眠をむさぼる惑乱の顔を見ていたら、無性に腹が立ってきた。
「起きろおっ!」 どかあっ! 「ぎょべっ!?」
だから、だらしなくヘソ天して眠っている惑乱を蹴り起こした私は悪くない。
これは、あの子の親御さんに代わって躾をしているだけ。
悪いのは、目の前できょとんとしているこの娘だ。私は悪くない。
「そこの駄目人間! 娘に何を吹き込んだあっ?」「うひゃわわわ……」
とりあえずシャワーを浴びて服を着させて。一段落してから色々と聞かせてもらったけど…… なにその脱力しそうな内容は…… ネタじゃないわよね?
「で、志帆が言っていた水着は…… これね?」「そそそうです、はひ……」
話を聞いてみたら、案の定だったわ。資料として版元から送られてきた水着を志帆に貸し出していたのよ。
「あんた何を考えてるのよ! 成人女性サイズの水着を小学生に……」
……という事があって、部屋の惨状について説教をして。
とりあえず一件落着ってところね。
ったく、あの子もあの子ねぇ。
水着くらい、言ってくれればいつだって買ってあげたのに。
どうせ今年も10月くらいまでは残暑が続んだからから。
うん、レディス用の水着を小学生に着せたら……
確かに無残な事になるねぇ。なむなむ。




