とっても美味しいパンケーキ
お兄ちゃんがおかしくなっている事を知ってる人は、あまり多くない。
時々話題に出るのは、病気説と交通事故の後遺症説くらいかな。
一番詳しいのは病院の院長先生と看護婦さん。かかりつけのお医者様だから当然と言えば当然だよね
そして、惑乱さんも私たち家族と同じくらいに知っている。
時々私の勉強を見に来てくれるから、その時に色々とね。
今日はお兄ちゃんの事で、相談に乗ってくれているんだけど……
くうぅぅ……
げげ!?
私のお腹のあたりから、かわいい音が……
惑乱さんたら、ニマニマ笑いながら私を見なくたっていいじゃないのよぅ。
仕方が無いじゃない! だってわたしはまだ15歳。
はっきり言って食べ盛りなんだからねっ。
「じゃあ、おやつを食べに行こう! 原稿料が入った私のお財布は無敵なのだよ。
それにね、おなかが空いていたら、良い考えなんか出るはずないでしょう?」
やった! 惑乱さんって太っ腹!
「ふふふ、元気になったみたいね。じゃ、行こうか」
……という事があってから15分後。
私は、惑乱さんに連れられて喫茶店にいる。
もちろん中学生の私では喫茶店に入る事なんか出来るはずはない。かと言って松戸先生から渡された身分証明書を使うのもなんか…… ね。
でも喫茶店のおじさんは私の事を知っているからオッケー! かな?
それに、おじさんのおかげで、私は松戸先生の講義を受ける事が出来るんだ。
本当に感謝しているわよ。
「ふぅ、やっぱり建物の中に入ると涼しいねぇ」
「私も暑さでどうかなるかと思った……」
やっぱりエアコンは人類最高の発明品だと思うわ。フレオンガスを生み出したイビムの科学者って、やっぱり凄いなぁ。
私たちは…… というより注文したのは惑乱さんだけど。
なんでも予想以上の原稿料が入ったので、懐が温かいんだそうだ。
漫画のネタは私が思いついたようなものだって言っていたけど、まあいいか。
んふふふふ。遠慮なくゴチになりまっせぇ。
「はい、お待ちどうさん。がっついて喉を詰まらせるんじゃないぞ」
喫茶店のおじさんェ、余計な事を……
前に松戸先生に連れてきてもらった時は、ピラフが変な所に入っちゃって大変な目にあったのは本当の事だけど。
まさか米粒ひとつで、あんな目にあうとは思わなかったわ。
でも今回は大丈夫だと思う。私の目の前にあるのはパンケーキ。
「そう言えば、前に話した岩波さんの事だけど……」
「げふっ!?」
あああああ、パンケーキのカケラが変なとこに入ったぁあ!
「あらあら、よっぽどお腹が空いていたのねぇ」「ほら、じっとしてろ」
あわててカウンターから出て来きたおじさんが私の背中をバシッと叩いたら、パンケーキのカケラが口から飛び出した。
「だから、がっつくなって言っただろう?」「あうぅぅぅ……」
がっついてなんか、いないよう。
パンケーキを前に幸せな気分に浸ってたのに、妙な話題を振った惑乱さんが悪いと思う。それもスマホの画像を見せながらだもん。
うん、今回の私は悪くない。悪くないって言ったら悪くない!
「この子がひらきちゃん。台山寺に伝わる古文書を見せてもらいに来たそうよ。それも親戚のところに泊りがけで。あそこの縁起書が2冊に分かれていたなんて知らなかったわぁ」
まだ小学2年生だというのに、1日で全巻読破なんて頭が良いのねぇ。
今度、私も見せてもらおうかしら。
そう言って、惑乱さんは笑っているけど。私はその中身を知っている。
台山寺縁起という古文書は、奈良時代に書かれたものだ。表向きは1冊という事になっているけど、実際には2冊でワンセットだという事も。
いわゆる異聞…… いや、違うか。あれは、そんな生易しいモノじゃない。
あの内容はとっても生臭いもの。腐ってると言った方が良いかな?
「で、ね? あの子、凄いのよぉ?」
キシシシ…… と、妙な笑い声をする惑乱さん。
その表情は、おかしくなる前のお兄ちゃんを見ていた時とそっくりだ。
パンケーキ、最近作ってないなぁ。
美味しく作るコツは、水分をやや少なめに。
フライパンは熱くしすぎずに。
そして、すぐに食べること!




