とっても暑すぎる夏の日
今日は午後からプールに行ってみた。
さすがに気温が高すぎ! 気温が30度を越えたら汗だくになるわよね。
ええと、エアコンも無いのか、ですって?
もう少し気温が上がってから使い始めるつもりですけど、なにか?
人間だって自然の一部なんだから、そういうものには従うべきでしょ。
決して原子力電池が故障したから意地を張ってるわけじゃないからねっ!
そう、泳ぎ! 泳ぎの練習しておかなきゃいけないの。
だから背泳ぎに挑戦したけどねぇ……
鼻からまともに水を吸い込むわ、足がつるわと、散々な目だったわよ。
あれからだいぶ経つのに、鼻の奥からカルキの匂いが抜けない。
いつもの公園でひと休みしてから帰ろうかな。
原子力電池の修理は電気屋さんじゃ無理だからメーカー修理になるし。
もう少し涼んでいこう。
「うーっ! 暑いのはやだぁ!」
汗だらけになり過ぎると身体が痒くなるし、蚊もいっぱい寄ってくる。
あせもも蚊にくわれるのも… とにかく痒いのだけは嫌だよぅ……
大きな桜の根元にぺたりと座り込んだ私は、幹に背中を預けると見るとはなしに公園を見回してみた。公園の真ん中にある時計塔の針は2時半…… か。
影は少しづつ長くなっているけど、今が日中で一番暑くなる時間帯だ。
突然さらり、とヤマツツジの枝を通り抜けた涼しい風が流れてきた。
ふむ、これはいい。実にいい風だ。
汗だらけの身体が、急に冷やされるでもなく。
それでも汗が少しづつ引いていくのが分かる…… ふぅ、やっぱり悩むなぁ。
「お兄ちゃんって、私の事をどう思っているのかなぁ……」
いくら私が自分磨きに努力しても、お兄ちゃんの好みに合っていなかったら、全ては無駄になる。私が努力しているのは、すべてお兄ちゃんのため。
お兄ちゃんに嫌われたら、私は生きている理由が無い。
でも、今のお兄ちゃんは…… ちょっと変になっている。
「……確かに疾風くんは、ちょっとおかしくなっているかもねぇ」
「おねーさん?」
神出鬼没だなぁ、惑乱さんは。
誰よりも──よく遊んでいる筈の百瀬さんや早見さんよりも早く、私を見つけているような気がするのは気のせいかしらね。
それより、さっきの独り言……
「今の疾風くんをイジっても張り合いが無いのよねぇ」
「いじらんでもいいですっ!」
あんたは馬を煮込んでいればいいの!
この季節に蝶を集める事が出来なかったなんて、あるわけないもの。
いま鳥に食べられちゃったけど、モンシロチョウだって蝶でしょ?
さあさあ、心ゆくまで蝶に埋もれてしまえ。
お兄ちゃんは私のものだ。たとえ惑乱さんにだって分けてあげないんだから。
とはいえ、いま何か変な事を言わなかった?
──魂魄が半分抜けかかっているみたい。
そんな事を言っていたような。
たしかにお兄ちゃんは、なんか変になっている。おかしくなったのは春のお彼岸のころからだけど、最近はかなりマシになってきてる。
病院でもらったお薬が効いているのかな。
だからこそチャンスなの。
今なら、好きなだけお兄ちゃんと一緒にいる事が出来るし、好きなだけ甘えても文句を言われないんだから。
そして、お兄ちゃんが完全復活を遂げた暁には……
「それよりも瑞希は何って言ってるの?」「へっ?」
きょとんとする私に、惑乱さんはあきれたように説明してくれた。
「ほらぁ、後藤先生のとこの……」「看護婦さんって、そんな名前だったの?」
「あいつとは高校以来の腐れ縁なのだよ」
そーだったんだ。
私もお兄ちゃんも、いつも看護婦さんとしか呼んでいなかった。どちらかというと気にしていなかったかな。
「話しにくかったら、私が代わりに聞いても良いけど?」
「いえ、自分でやる… いえ、相談したいです」
相談事というのは人づてにしちゃ駄目なのは、私が一番知っている。そんな事をすれば、世間話のついでとばかりに当たり障りのない答えが返ってくるかも。
それが大切なこと、プライベートに関わる事ならなおさらだ。
それ以前に相手に対して失礼だもの。
原子力電池は核物質の崩壊熱と放射線を、直接電力に変換する装置。
お値段は、ちょっと頑張れば一般家庭でも手に入れる事が出来る程度です。
大きさは… たしか、お弁当箱くらいだったはず。




